「追儺(ついな)」といって、宮中では大晦日(旧暦12月30日)に鬼払いを行う年中行事があり、中国から伝わったとされている。「鬼追い」「鬼祓い」「鬼やらい」「鬼走り」とも呼ばれる。 ちなみに、鬼を豆によって追い払う節分も「追儺」がルーツとされている。
【考察】 薬師寺、法隆寺、長谷寺などでは、修二会の結願の日に追儺の儀式が行われ、それぞれオリジナルの鬼が現れ多様なパフォーマンスが繰り広げる。ちなみに、修二会とは、旧暦の二月に行われる本尊に対する悔過(けか=罪の懺悔告白)で、とりわけ東大寺二月堂の修二会が「お水取り」の名で有名である。 【フィールドワーク】 ○長谷寺の「だだおし」 2月8日〜14日の修二会の最終日(結願の日)に行われる鬼祓いの儀式が行われる。読経の中、赤・青・緑の鬼が突如現れ、牛玉札(ごおうふだ)という功徳のある札を手にした僧侶衆によって堂外に追出され、やがて松明をもって本堂の周囲を走り回る。 ○薬師寺の「花会式」 3月23日〜31日の修二会の結願の日、夜8時に「鬼追い式」が始まる。松明を持った黒・青・赤・白・黄の5匹の鬼が、金堂前の特設ステージに現れ、悪役プロレスラーさながらのパフォーマンスで暴れ回る。やがて、毘沙門天が現れ鬼を退散させて終了となる。 ○法隆寺の「追儺式(鬼追い式)」 2月3日の修二会の結願の日、西円堂で午後7時より7回半の鐘太鼓が鳴り終えると、基壇上に黒鬼、青鬼、赤鬼が登場してくる。あらかじめ西円堂は金網で囲まれ、それに向かって鬼がそれぞれ松明を投げる。 時には、金網を飛び越えて火の粉が参拝者にも降り注がれる。やがて、毘沙門天が現れ、鬼たちは追い払われる。 ○念仏寺「陀々堂の鬼はしり」 かつては、旧暦1月に7日間行われる修正会(しゅしょうえ)結願の日に行われたと思われるが、現在は、1月14日に行われる鬼走り行法だけが伝わる。陀々堂の鬼は、追い払われる対象となる悪い鬼ではなく、阿弥陀如来に仕え災厄を除き福をもたらす善い鬼とされているところが他の寺院の追儺と大きく異なるところである。父・母・子役の3匹の鬼が松明もって現れる姿はお堂を焼きつくさんばかりの迫力がある。 ○金峯山寺の節分会・鬼の調伏式 2月3日の節分会では、蔵王堂で午前10時から日数心経、午前11時からは星供秘法が唱えられる。この間、赤・緑・黒それぞれ2匹ずつの鬼たちは、蔵王堂の内外で数々の悪事を働くが、やがて。星供秘法の最中に鬼たちがなだれ込み踊り始めるが、山伏や信者たちが「福は内、鬼も内」 と唱えて豆を投げると、鬼は降参し調伏式にのぞむこととなる。鬼のコスチュームはオーソドックスで、歴史や威厳を感じさせないが、ユーモラスで親しみをもてる。 ○興福寺の追儺会 2月3日、午後6時半から東金堂で、無病息災・延命長寿のための薬師悔過(星祭り)の法要があり、7時15分ぐらいから鬼が登場する。東金堂の前に組まれたステージで、松明を持った鬼たちが悪役ぶりをアピールするが、やがて毘沙門天が現れ鬼を退治するが、その後、大黒天が現れてくるのが興福寺ならではの演出だろうか。 ○大安寺の節分会 2月3日、午後2時から、護摩堂で開運護摩祈祷(星供護摩)が行われ、その後、本堂の廊下を暴れ回る鬼を僧侶が法力と豆によって退治する。鬼が付けている赤鬼と青鬼の面は、2012年、彫刻家の奥田裕さんによって奉納されたもので、能面の技法で作られているという。
長谷寺ホームページ http://www.hasedera.or.jp/ 薬師寺ホームページ http://www.nara-yakushiji.com/ 法隆寺ホームページ http://www.horyuji.or.jp/