名 前 ガタロ 【河太郎】
出没地 秋野川(下市町瀧上寺裏)
伝 説

 下市の町の中ほどに瀧上寺という寺がある。その裏に秋野川が流れていて、寺の下は大きな淀みになっている。ここは「銚子の渕」と呼よばれているが、一匹のガタロが住んでいて、子供が遊びに来ると、川の中へ引きずり込んだり、お尻に吸い付いたりしたので、みんなとてもこわがっていた。しかし、この銚子の渕は、とてもいい遊び場だったので、「こわい、こわい」といいながらも、子どもたちは、夏になるとよく泳ぎに行った。親たちは、子供が泳ぎに行く前に、この渕にキュウリ2本を持って行って、「さあ、キュウリやで。子供たちに悪いことせんといてや」といって頼むそうであった。

談 義

【考察】
○ 河童の好物はキュウリで、キュウリを使った巻き寿司は「河童巻き」と言うぐらい有名である。川の主として登場させられる河童は、子どもたちの水難事故防止の役割が多く、遊泳シーズンの時期のお供え物として、夏野菜のキュウリが選ばれた と思われる。
○ 奈良のガタロは、しばしば「尻の穴(骨)を抜く(吸う)」という表現で恐れられる。当初、この意味がよくわからなかったが、他県では「尻子玉(しりこだま)を抜く」とも表現され、尻子玉とはヒトの肛門内にあると想像された架空の臓器である。溺死者の肛門が、まるで尻から何かを抜き取られたかのように広がっていたことからきているとされている。つまり、溺れ死んだ人は河童に尻子玉を抜かれたと戒められていたわけで、遊泳に危険な場所に、しばしばガタロが登場する由縁でもある。
【フィールドワーク】
○ 瀧上寺前を通りがかった比較的ご高齢の方にお話を聞くが、ガタロの話を知らない人がほとんどであった。お一人の女性が、「この裏を銚子の渕というて、昔、ここのお坊さんがオシッコに行った時に、お尻をガタロになぜられた」という話を伝え聞いていた。

引用文献

『奈良の伝説』奈良の伝説研究会編(S55.9.25.日本標準)
『大和昔譚』澤田四郎作・編輯発行者(S6.10.25.)

 
瀧上寺   秋野川
ヌシが潜んでいそうな渕が続く瀧上寺裏の秋野川
名 前 ガタロ 【河太郎】
出没地 吉野川(川上村白川渡付近)、中奥川(川上村)
伝 説

◇ (大滝)ダムの工事で切られてしまったけど、(白川渡の)国道下に目通りで回りが8尺からある赤松の古木があって、「ガタロ松」と呼ばれていた。ここには、この松が枯れるまで出てくるなと言い渡されたガタロが封じ込められていて、「この木を触ったらあかん」とか「この木を切ると祟りがある」と教えられてきた。
◇ ガタロは大塔さんに祀ってある。小宮さんの横で、「河伏さん」と呼んでいる。この辺にも、ガタロがよく出たようで、この石が腐るまで出てくるなと封じ込んだそうである。その石は、ガタロによく似た河童の形をした石で、今も祀ってある。

談 義

【考察】
○ 奈良県の吉野川には、かつてニホンカワウソが生息していたようで、このニホンカワウソが河童と見間違えられたとされる説もある (『吉野川の自然学』御所久右衛門編)。はたして、ニホンカワウソの方はキュウリが好物だったのだろうか。
○ 大滝ダムの工事が始まるまで白川渡の「ガタロ松」が存在していたようで、私自身、しばしばアマゴ釣りに通過し、カメラに収める機会もあったろうに、今となっては悔しい思いである。一方、瀬戸の封じ込め石は今も存在し、カメラに収めることができる。
【フィールドワーク】
○ 中奥川は吉野川の支流の1つで、奥行きは深くかつていくつもの集落があったことが想像される。この辺りは「オオトウサン(大塔さん)」信仰が残り、大きい絶壁か巨岩を指して言う。中奥のオウトウサンは大絶壁で、大塔神社として中奥地域で祀ってきた。石塔・石灯籠には、宝永4(1707)、延享4(1747)、天明3(1783)の年号がみられる。しかし、神社周辺の集落はすでに絶え、神社そのものにも車道は通じておらず、最近、そのご神体は十二社神社(川上村中奥7)に移されたそうだ。
 車道から徒歩10分の山道を登る。ところどころ崩壊しかけの箇所もあり、足元が危うい。たどり着いた大塔神社の社は、ずっしりと落ち葉に埋もれているが、まだまだ朽ちてはいない。早速、ガタロの封じ込め石を探すが、河童の形の石など見当たらない。実は、事前に森と水の源流館学芸員の方から詳細な話を伺っていたので、今回、初見で特定することができた。そんな話も伝説も予備知識持たずにこの神社に遭遇したとしても、案内板の1つもなく、限界集落の残骸に哀愁を抱いただけだろう。

引用文献

『川上村昔ばなし』広報「かわかみ」編集委員会(2007.3.吉野郡川上村)

 
ガタロを封じ込めたとされる石(大塔神社)   大塔神社(現在、御霊は瀬との十二社神社に移されている。)
 
大塔神社への登り口   奇岩を祀ったオオトウサン