Mountain Guide
                         くりんとの登山ガイド

           
   
 西大台【逆峠〜小処温泉】
逆峠手前の展望良好地より東大台を望む

 
ミズナラの巨木   左)蒸籠ー 右)大蛇ー

 昭和36年(1961年)に大台ヶ原ドライブウェイが開通するまで、大台ヶ原への奈良県側からの登山道として、上北山ルート(河合〜小橡〜木和田〜逆峠〜開拓〜大台教会)と川上ルート(柏木〜入之波〜筏場〜大台辻〜大台教会)の2つが一般的であった。ただ、歴史を遡れば、松浦武四郎の場合、明治19年には天ヶ瀬→伯母ヶ峰→キワダズコ→経ヶ峰→シオカラ谷→大蛇ー、明治20年には、天ヶ瀬→小橡川→西原→辻堂山→キワダズコ→経ヶ峰→三津河落山→ナゴヤ谷→大蛇ーのルートを使って探検したと記録している。どうも様々なルートが開拓されていたようだ。
 さて、先の上北山ルートであるが、最近は小橡や木和田を起点とせず、小処(こどころ)温泉へ降りるルートが整備されている。問題は、小処温泉までバス等の公共交通機関が通じていないこと。さらに、このコースは利用調整区域の西大台を通過するため、事前の申請手続と入山前にレクチャーを受けておく必要がある。小処〜大台ヶ原駐車場間は、林道木和田線(県道226号)を使うことができるので、車2台で工夫されたい。
 ビジターセンターでレクチャーを受けた後、大台教会から反時計回りで七ツ池〜開拓分岐をめざすのがお薦めである。開拓分岐で道を間違わぬよう、右手をとり南へ進む。ここはツキノワグマの目撃情報の多いところでもある。途中、「カボチャの木」と称されているミズナラの巨木を通過し、見晴らしのいい展望地に出る。ここからは、東ノ川を挟んで大蛇ーの向かいにあたるので、双眼鏡をもっていけば大蛇ーに出てきた登山客の姿もよく見える。

大蛇ーより逆峠を望む
 
逆峠   逆峠と竜口尾根の鞍部
 
笙ノ峰   登山道
 
100年前の碍子   小処温泉

 展望地から逆峠をめざすと、すぐに西大台利用調整区域と別れを告げるゲートがある。登山道に沿うと、逆峠の峰(標高1411m)をやり過ごしてしまうので注意が必要である。逆峠のピークに三角点はないが、松浦武四郎発願の石標「逆川峠」を見つけることができる。その当時のルートは、尾根伝いを基本としていたことがこの石標でもよくわかる。
 「逆峠(さかさとうげ)」の名の由来はなんだろうと思っていたが、この石標から、かつては「逆川峠」と呼ばれていたようで、後に「川」が省略されて「逆峠」になったようである。そして、この峰に端を発した渓流が「逆川」である。全国に「逆川」という名称の河川は多数あり、潮位の上昇や合流先河川の増水などによって、水が逆流することがある河川や地形などの影響で周辺の川とは逆の方向に流れている河川に命名されているようだが、ここ西大台の場合、後者の方だろうか。
 逆峠を下ると竜口尾根との鞍部に至るが、かつてのルートは地形図上の「・1323」から「三角点1317」までの尾根に沿い、さらに小橡まで尾根道を歩いたと考えられる。しかし、現在の登山道は、尾根上のアップダウンを回避するため、上述の尾根の少し北側を通り、時には獣道のようにやせた歩道となって進んでいく。
 この登山道沿いでは、大きなブナの木に打ち込まれた、真っ白な碍子が目につく。大台教会を開いた古川嵩氏は、大台ヶ原の気象観測にも意欲的で、山頂付近での出水警告を下流の河合村林業組合に連絡する方法として、大正14年(1925年)に電話線の架設を大台教会−逆峠−河合間に施したという。この時の架線を通すための碍子が、そのまま100年近く残っているということだ。当時、既に大木であった樹木を選び打ち込んでいるはずだから、そうしたブナの木の樹齢も+100年たっているわけだ。
 この登山道は、本来、小橡か木和田まで延びていたはずだが、小処温泉への集客のためか、林道を利用しながら小処への急坂が整備されている。標高差500mを一気に下っていくため、ここまで歩き蓄積した疲労が一層足に応えてくる。川のせせらぎが聞こえだし、放置された山小屋を過ぎると、やがて小処温泉の施設が見えてくる。25.6℃の硫黄泉を再加熱した湯が岩風呂や木風呂に注いでおり、小橡川の渓流を望みながら温まると疲れも癒やされる。

 
 
 
   

 
   

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