Mountain Guide
                         くりんとの登山ガイド

           
   
 尾鷲道からマブシ嶺をめざす

大蛇ー付近と白崩

 「東大台」「西大台」という地域名は、今やすっかり定着しており、大台教会や駐車場を起点に呼び始めたのだと推察する。ならば、三津河落山を中心として経塚山や大台辻あたりまでを「北大台」とするのはどうだろう。さらに、尾鷲辻から堂倉山・マブシ嶺あたりまでを「南大台」と呼ぶこともできる。「北大台」は立ち入りを制限されているが、「南大台」は実際に尾鷲まで下ることのできる尾鷲道が生きている。尾鷲道とは、文字通り尾鷲から大台ヶ原に通ずる道だが、古川嵩氏が神武天皇像を建立した際には、その運搬にこの道を利用したと考えられる。

 さて、大台ヶ原ビジターセンターから尾鷲辻までは中道が最短ルートである。尾鷲辻には東屋があり、ここから牛石ヶ原や大蛇ー、または正木ヶ原に向かう登山客は多いものの、東屋の南方向に伸びるミヤコザサの道に足を踏み入れる人はまず見かけない。ここから片道約30分のところに堂倉山(標高約1470m)があるが、眺望が開けているわけでもなく人気のないピークである。堂倉山山頂を南側に下り立ったところは「シラサコ(白カケ)」と呼ばれており、小さな平地に陽光がよく通っている。この付近は、大蛇ーの方から伸びてきたトロッコ道跡があり、時に尾鷲道と重なっている。枕木やレールの取り除かれた線路跡をイメージしてもらうとわかりやすいが、登山道としては贅沢な1〜2m幅の道が緩やかな傾斜で伸びている。ただ、このトロッコ道はいつまでも尾鷲道に寄り添っているわけではなく、巨岩帯を通り抜けたあたりからやがて森林の中に埋もれ視認できなくなる。
 トロッコ道が識別しやすい理由の1つとして、この辺りの林床にミヤコザサが繁茂せず、ミヤマシキミが優先しているからである。近年の大台ヶ原でよく見られる風景だが、やはりここもニホンジカの食害の影響だろう。一方、足下に目を奪われたのがハリモミの松ぼっくりで、トウヒやウラジロモミなどの針葉樹に混じってハリモミがしっかりと根を下ろしているのはうれしい発見であった。先ほどから、進行方向(南)に対して右手に気になる風景が見え隠れしている。神様のいたずらかと思われる真っ平らな山並みである。そう大台ヶ原が準平原であることを実感できる断面図のような山容なのである。左先端は大蛇ーあたりと想像できるが、大蛇ーをゾウの鼻に見立てると、ゾウの耳あたりには、真っ白な岩礁が大きくむき出しとなっている。「白崩(しらくえ)」と呼ばれている岩礁で、その下の谷が「白崩谷」である。三度にわたって大台ヶ原に入山した松浦武四郎は、木津(三重県)に下りているため、ほとんど尾鷲道を使っていないが、3回目の入山時には、大蛇ーから堂倉山西側をまいてこの白崩谷を使って東ノ川まで下りている。

 
ハリモミの松ぼっくり   ミヤマシキミ林床の尾鷲道
 
トロッコ道跡   巨岩地帯

【所要時間】
 <往路>
  駐車場・・・尾鷲辻 (約30分)
  尾鷲辻・・・白サコ・・・地倉山・・・マブシ嶺 (約2時間30分)
 <復路>
  マブシ嶺・・・白サコ・・・堂倉山・・・尾鷲辻・・・駐車場 (約3時間)

 昭文社の登山地図では「地倉山」と記載されており、山頂付近にはその名の木札も掛かっているが、その山名には諸説あるらしい。この「地倉山」へは、尾根に沿った道が国土地理院の地形図にも記されているが、実際の登山道は山頂から見て西側の裸地となった鞍部に至り、峠の様相である。ここは展望が開けており、マブシ嶺に続く尾根や眼下には坂本貯水池が見える。標識が建てられているのでその方向に従って、一直線の踏み跡を標高差約50m一気に登る。「地倉山」からマブシ嶺にかけては、西側の斜面に大規模な崩落跡が幾つも見られ、今もなおその浸食は現在進行形のようである。そのためか高木は残っておらず、標高1400m付近にもかかわらず植生限界のような風景である。錆び付いたワイヤーロープがあちこちに放置されており、あるいは皆伐後の遷移が進んでいないのかもしれない。駐車場から約3時間でマブシ嶺(標高1411m)到着。尾鷲道は、そこから一気に約200m高度を下げ木組峠へと続くため、マブシ嶺に三角点はあるものの、ピークと言うより断崖の果てに辿り着いたような気になる。ここからも眼下に坂本貯水池のバックウォーター付近がよく見える。足を滑らせると、一気に坂本貯水池まで転げ落ちそうなくらい急斜面である。

 尾鷲道は、堂倉山から台高山脈の尾根に沿っているが、アップダウンを避けるためかやや西側に平坦な巻き道が伸びている。帰路は「地倉山」から尾根を辿ってみようと試みたが、私の場合、どうやら尾根を読み取る目視力に欠けるらしい。さっそく東に下ってしまい、危うく二ノ俣谷をめざすところであった。体力的にも余裕があったので、「シラサコ(白カケ)」から県境に沿って堂倉山をめざす。南からは明確な踏み跡もテープも乏しく、スマホの地図アプリをたよりに標高約70mを登る。山頂には、「堂倉中継局」というプレートの掛かった人工物があるくらいで、三角点はなく眺望も開けていない。帰路もほほ3時間要し、駐車場に着く。

マブシ嶺
 
地倉山   放置されたワイヤーロープ
 
眼下に坂本貯水池バックウォーター   マブシ嶺付近より地倉山を望む
 
マブシ嶺三角点(1411m)   堂倉山
 
 
 
   

 
   

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