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6月の主役はシロヤシオ

 

正木峠はシロヤシオのトンネル(2011年)

 
    シオカラ谷のシロヤシオは1本1本枝ぶりがいい(2014年)

 大台ヶ原のリピーターは花の季節をよく知っている。5月上旬はトサノミツバツツジで、下旬からツクシシャクナゲ、6月に入ればアケボノツツジ、サラサドウダン、ヤマツツジ、そしてシロヤシオが見頃を迎える。いずれもツツジの仲間だ。大台でガイドをする際、「シロヤシオは別名“五葉ツツジ”ともいい、愛子内親王のお印です」と説明すると食いつきがよい。大台ヶ原のような高山に来て初めて目にすることのできる真綿色の清楚な花に、よくぞお印として選ばれたものだと、私も感嘆している。

 さて、どんぐりに成り年・不成り年があるように、花にも成り年・不成り年がある。植物にとって、花を咲かせたり実をつけたりする繁殖戦略には、相当なエネルギーを費やすため、その準備が整っていなかったり気象条件によってはあっさりとその戦略を放棄してしまう。大台ヶ原のように標高が高く生育環境の厳しいところでは、そうした判断がその後の生死を分けかねないため、植物も無理をしないようだ。
 2011年6月、東大台に開花したシロヤシオは、6年に一度という当たり年だった(ビジターセンター職員・談)。どの個体もたわわに花を付け重たそうである。とりわけ日出ヶ岳山頂下の展望台から正木ヶ原山頂までの木道が、シロヤシオのトンネルとなっていて、大台一の見どころである。花弁は、その蜜標が緑色をしているせいか寒色系の雪のような白色をしている。しかし、なかにはピンク色が入ったもの、さらに花弁全体が淡いピンク色をしたものなど個体差もあり見ていて飽きない。

 昆虫と共に進化を遂げてきた被子植物の花は、蜜との引き替えに受粉をポリネーターたちに担ってもらっている。蜜の在りか(蜜腺)と雄しべ・雌しべの位置関係は微妙に工夫され、昆虫の体の決まったところに花粉をつけさせているものも多い。このようにポリネーターたちを効率よく誘導するために、花弁には蜜標(ガイドマーク)というものを付けている花がある。とりわけツツジのなかまには顕著に表れており、観察にも適している。
 写真でわかるように、シロヤシオの花にはすべて同じ位置(上側)に緑色の斑点模様がある。そこを道標にやってきた昆虫の腹側に接触するよう、雄しべ・雌しべもやや上向きに伸びている。美しさをアピールしたかのようにみえる花弁にも、こうした合理的・機能的な美しさが兼ね備わっている。

アカヤシオ(御在所岳) アケボノツツジ

シロヤシオの蜜標

 時に、「大台にアカヤシオはありますか?」となかなかマニアックな難問を返してくる強者もおられる。アカヤシオは、大台ヶ原では今のところ確認されておらず、御在所岳(三重県・滋賀県)以東に見られるようだ。したがって、これまで「シロヤシオはありますが、アカヤシオはありません」と答えてきた。
 ただ、私も、“真っ赤なシロヤシオ”を見たいと思い、5月の大型連休に御在所岳に登った。しかし、真っ赤なツツジは見当たらず、大台ヶ原のアケボノツツジによく似たピンク色のツツジが山肌を彩っていた。やがて、このツツジこそアカヤシオであることを悟り仰天する。花弁の形状がシロヤシオに似ても似つかぬ、しかもピンク色のアカヤシオは、「アケボノツツジの変種である」という説にたどりつき、大いに納得した。アケボノツツジの花柄に腺毛が生えていないのに対して、アカヤシオの花柄にはたくさんの腺毛が生えているというのが大きな違いらしい。開花時期も、アケボノツツジとアカヤシオは4〜5月と近いが、シロヤシオは1ヶ月遅れることになる。
 今度から、「大台ヶ原にアカヤシオはありますか」と尋ねられたら、「大台ヶ原のはアケボノツツジです」と答えることにしよう。では、以下に大台 ヶ原のツツジ科図鑑を。

 
 

アカヤシオ(御在所岳)

 
トサノミツバツツジ(5月上旬)   ツクシシャクナゲ(5月下旬)
 
アケボノツツジ(6月初旬)   サラサドウダン(6月初旬)
 
ヤマツツジ(6月初旬)   シロヤシオ(6月中旬)
 
ツリガネツツジ(6月初旬)   ベニドウダン(6月初旬)
 
シロドウダン(6月下旬)   コアブラツツジ(6月下旬)