トウヒとウラジロモミ −大台ヶ原の針葉樹−
東大台の針葉樹林(上道)
【トウヒとウラジロモミ】 トウヒ(マツ科)分布の南限は奈良県で、ここ大台ケ原や大峰山系など標高1500m以上の山々に自生が見られる。「唐檜」という漢字があてられているが、北海道に育つエゾマツと同種と考える学者もいるようだ。ただ、エゾマツに比べて葉は短く球果も小ぶりである。 駐車場周辺は、このトウヒと混在してウラジロモミ(マツ科)も多い。名前の通り葉裏には白い気孔帯が目立つが、これはトウヒも同じである。したがって、葉の「裏白」では判別しにくい。両者の一番の違いは、球果である。トウヒのものは茶色で細長く、下向きにぶら下がっている。一方、ウラジロモミのものは青紫色で楕円形、ろうそくのように上向きについている。ウラジロモミの球果は、その鱗片が一枚一枚風に飛ばされ、やがて芯だけが残るのに対して、トウヒは地上にそのままの形で落ちている。慣れてくれば、紫色したトウヒの樹皮と、ほんのりピンクがかった白色のウラジロモミの樹皮と、その違いで判別できる。
トウヒ属(トウヒ) 「葉枕(ようちん)」と言って、葉の付く枝の部分が著しく発達している。
モミ属(ウラジロモミ) 葉が枝につくところが吸盤状になっている。
ツガ属(コメツガ) 「葉枕」が少し盛り上がり、さらに「葉柄(ようへい)」も見られる。
【大台の針葉樹】 大台の針葉樹として、中道沿いにコメツガが多いのも特徴である。高地に生えるツガ類は、標高1500mあたりで低地のツガとすみ分けているようだ。さらに、大蛇ーやシオカラ谷へ下りる登山道沿いには、ハリモミを見つけることができる。ツガ属、モミ属、トウヒ属は、それぞれ「葉枕(ようちん)」と言って、葉の付く枝の部分の形状でも判別できる。(※画像参考) 野鳥の中にも、比較的こうした針葉樹林を好むものもいる。尾鷲辻付近には、体長11センチ程度と小さく可愛らしいヒガラ(シジュウカラ科)が多く、黒い頭と白い頬が特徴で、「ツピンツピン」「チンチョン チンチョン」と早口でさえずる。また、メボソムシクイ(ウグイス科)の姿は地味で目立たないが、「チョリチョリ チョリチョリ」というさえずりが「銭取り銭取り」という聞きなしでよく知られている。 かつて、こうした大台の針葉樹の鬱そうとした森とその林床に繁茂する苔こそが、大台ヶ原の代名詞でもあった。しかし、近年はその立ち枯れが目立ち、特に正木ヶ原周辺は今や木立もなくミヤコザサの草原となっている。その原因の1つにシカの食害があげられ、稚樹の葉や芽を食べつくしたり、大きな木の場合は樹皮を食べてしまうことで枯らしてしまう。そのため、金属製のネットで幹を保護したり、防鹿柵である一画を囲んだりしながら、かつての針葉樹の森を取り戻そうとする試みがなされている。ちなみに、金属製のラスは、樹皮にとりついている苔や地衣類の成長を阻むことがわかり、最近では樹脂製のものにとって代わっている。