【シカはなぜ樹皮を食べるのか】
ニホンジカによる剥皮は、大台ケ原の場合、樹種の選択性が見られる。広葉樹では、リョウブ(高)、フウリンウメモドキ(次)、ヒメシャラ、アオダモが多く、針葉樹では、ウラジロモミ、トウヒ、ヒノキとなっている。吉野地方の胃腸薬にキハダの樹皮などを煮詰めて作った「陀羅尼助」という丸薬があるが、シカがキハダの樹皮を食べた跡もある。こうした剥皮は、冬場の積雪期に行われるのかと思いきや、ミヤコザサなどの食糧が十分にある夏場にこそ多くみられる。では、なぜ剥皮を行うのだろうか。「質の高い夏季のミヤコザサを採食することによって引き起こされるルーメン胃(反芻動物の胃)内の異常発酵を、消化しにくい樹皮を採食することで緩和している」のではないかという仮説もある。すると、ミヤコザサを食べれば樹皮も合わせて食べなければならず、高木の枯れ死によって森林衰退を招く。結果としてミヤコザサ草原が拡大し、シカに都合のいい環境が広がる。シカは自ら快適な食環境を創造しているということになるが、どうだろう。
◇引用文献:『大台ケ原の自然誌―森の中のシカをめぐる生物間相互作用』柴田叡弌,日野輝明・編著 |