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どんぐり会議

 

大台ケ原(2009/JUL)

【ブナ科のマスティング現象】
 「ブナは5〜7年に一度成り年があり、広い範囲で同調する。そして、その間ほとんど結実しない凶作や並作が続く。」と言われているが、このような現象を「種子生産の豊凶」「成り年現象」、あるいは英語そのままに「マスティング(masting)」などと呼んでいる。この現象はブナの繁殖戦略の1つと考えられ、その目的として「捕食者飽和仮説」と「受粉効率仮説」とが有力である。
 「捕食者飽和仮説」を読み解くと、不作年に種子食性昆虫の密度を低下させ、翌年の豊作年に捕食者が食べきれないほどの花(種子)を生産して、種子の生存率を高めるという。種子の虫害率は、開花数が前年に比べて増えると低くなることが報告されており、ブナのマスティングは動物による種子捕食を回避するために進化した現象であると考えられている。ブナの実の捕食者としてツキノワグマが有名だが、実は昆虫による食害率が圧倒的に高く、全種子の90%を越えることもあるとされる。ブナの場合、ナナスジナミシャクやブナヒメシンクイ(関西ではこちらが多い)などがブナの種子食スペシャリストであり、クリやナラ類(ミズナラ等)の場合は、シギゾウムシ等によって落下前に多く加害を受ける。
 「受粉効率仮説」は同調して開花することで、受粉効率が向上し結果率(花の数に対する果実の数の比率)が高くなるという利点が得られるという考え方であるが、「捕食者飽和仮説」と複合的に作用しているとも考えられる。ただ、どちらかと言えば「捕食者飽和仮説」によってもたらされる効果の方が有効であるとされている。

【ブナヒメシンクイ】 (ハマキガ科)
○ 果皮を残し内部だけが摂食される。殻斗内の2つの種子の接合面に、幼虫が移動した際に開けた直径1mmほどの穴が見える。  
○ 蛹が落葉層で越冬し、春に孵化した成虫が交尾を行い、ブナの殻斗に産卵後、孵化した幼虫が種子を摂食する。開花後に移動能力の高い成虫が羽化し、殻斗を探索して産卵できる利点がある。
○ ブナヒメシンクイはブナキバガなどよりも摂食時期が最も早い。

【ツキノワグマはどうやってブナの豊凶を知るか】
 「ブナなどのどんぐりが不作の年はクマが里に出る」と言われて久しい。ただ、ブナの豊凶が、全国一斉の同調現象として見られるわけではないが、2001年、2004年、2006年は、やはり全国的にブナの凶作年だった。ブナが凶作なら、同

じ標高に育つミズナラのどんぐりにシフトを代えればいいようなものだが、ブナとミズナラの間にも豊凶の同調があると考えていいのかもしれない。
 東北地方では、ツキノワグマの有害駆除数は毎年7月頃から増加しはじめ、8〜9月にはピークを迎える傾向があるという。ツキノワグマにとって、夏は食物を活発に探すと共に、繁殖シーズンでもあるため広範囲を動き回るとされる。人里への出没が増加する年も、ブナの堅果が利用できる10〜11月ではなく、やはり8〜9月にピークがあるということは、その時点でブナの凶作が来ることを予知しているということになる。では、どうやって凶作を予知できるのか。大豊作の後は必ず凶作が来ることを経験知として知っているのか、あるいは、初夏に咲くブナの花の量でその秋の豊凶を察するのか、研究は始まったばかりである。


ツキノワグマの食痕(大台ケ原/2006)