Home 大台自然観察ノート 大台ヶ原図鑑  
 

大台ケ原のコケ図鑑


 

「トウヒやウラジロモミの鬱蒼とした森に苔むした林床」こそが、かつての大台ケ原を象徴する風景であった。大台ケ原には約600種以上のコケが見られ、屋久島のそれを上回るとも言われている。しかし、昭和30年代に始まった森林の衰退は加速の一途をたどり、ニホンジカの増加と共に、現在、正木峠一帯の林床はミヤコザサの草原と化している。「苔道」と命名された駐車場周辺の周回コースも、その名は過去の話。やはり、陽光の好きなミヤコザサが優先種となっている。 とはいうものの、注意深く見て歩けば、大台ケ原はやはりコケの宝庫。では、簡単にコケの勉強のおさらいをすることにしよう。

コケの定義
 ○ 光合成をおこなう。
 ○ 維管束(水分や養分を運搬するパイプ)がない。
 ○ (着生するため器官はあるが、)根はない。
 ○ (水分を介在にして、)胞子で増える。

コケの種類
 ○ 蘚類(せんるい) : スギゴケ、ミズゴケ
 ○ 苔類(たいるい) : ゼニゴケ、ジャゴケ
 ○ ツノゴケ類     : ニワツノゴケ、ツノゴケモドキ

 
 日常用語で「苔」といった場合は、コケに加えて地衣類もさすが、生物学的には「蘚類」「苔類」「ツノゴケ類」の総称をいう。「蘚類」の多くが双子葉植物の茎と葉を小さくしたような形「茎葉体(けいようたい)」であるのに対して、「苔類」はそのような区別のない「葉状体(ようじょうたい)」である。園芸資材としてのミズゴケは、オオシズゴケとホソバオキナゴケに大別されるが、オオシズゴケは自然公園法で保護されるべき指定植物であり、市販されているミズゴケはすべて輸入品であると信じたい。


   
<林床・岩上腐植土>    
セイタカスギゴケ   コセイタカスギゴケ
 

@スギゴケ科(蘚類)A苔道(2011.7.16.)
B亜高山帯性。明るいところが好きで、大台ではイワダレゴケに代わって増えてきた。とはいうものの、西日本では大台・大峰・高野山・氷ノ山などでしかで見られない珍しいコケ。

 

@スギゴケ科(蘚類)A苔道(2011.7.16.)
B亜高山帯性。セイタカスギゴケと隣接して見られることが多く、見分け方は「見た目」。詳細には顕微鏡が必要となってくるのですが、慣れれば「見た目」がさえて くる。

   
フウリンゴケ   イワダレゴケ
 

@スギゴケ科(蘚類)A上道(2011.7.16.)
B亜高山帯性。登山道の法面などで、上からセイタカスギゴケ、その下にコセイタカスギゴケ、そして一番下にフウリンゴケと3種セットで見られることが多い。

 

@イワダレゴケ科(蘚類)A上道(2011.7.16.)
B亜高山帯性。暗いところが好きで、かつての大台はトウヒやウラジロモミの下の薄暗い林床に、このコケが何十センチもの層をなして覆われていたと想像される。このコケの 這う森を再び取り戻したい。

   
ヨシナガムチゴケ   エゾスナゴケ
 

@ムチゴケ科(苔類)A苔道(2011.7.16.)
B亜高山帯性。林床や樹幹に着床するが、大台において蘚類が多い中、このコケは珍しく苔類。 

 

@ギボウシゴケ科(蘚類)A駐車場(2011.7.16.)
B乾燥などの過酷な条件にも適応する。写真のコケは、駐車場周辺の石垣に見られたが、直射日光のあたる時間帯は巻いていたが、霧吹きをかけると写真のように開いた。

   
<腐倒木・腐植土>    
ミヤマクサゴケ    
 

@ナガハシゴケ科(蘚類)A上道(2011.7.16.)
B亜高山帯性。大台では、シカの増えすぎやミヤコザサの繁茂によって、トウヒやウラジロモミの世代更新がなかなか進まない。

 

そんな中、倒木の上のミヤマクサゴケだけがなぜか、トウヒなどの実生マットとなっていることに注目したい。その理由の1つとして、水持ちのよいコケであることがあげられる。

   
イトハイゴケ   フジハイゴケ
 

@ハイゴケ科(蘚類)A苔道(2011.7.16.)
B最も乾燥化に強いコケだが、ち密なせいかトウヒなどの種が着床しにくく、ここ大台では実生マットと成り得ていない。

 

@ハイゴケ科(蘚類)A苔道(2011.7.16.)
B
山地の腐植土や腐倒木の上に生える。
 

   
<樹幹>    
リスゴケ   イタチゴケ
 

@イタチゴケ科(蘚類)A苔道(2011.7.16.)
Bブナ帯に見られ、先端はリスの尻尾のように弓上にとがっている。

 

@イタチゴケ科(蘚類)A苔道(2011.7.16.)
B弓上に跳ね上がった形態はリスゴケとよく似ているが、こちらは1本1本が長い。

   
ミヤマシッポゴケ   トラノオゴケ
 

@シッポゴケ科(蘚類)A苔道(2011.7.16.)
B動物の毛並みのような質感が特徴である。低地〜亜高山帯に分布する。
  

 

@トラノオゴケ科(蘚類)A苔道(2011.7.16.)
Bルーペなどでよく観察すると小さな鱗状の裂片が行儀よく並んで、1つ1つが光っている。慣れればこれが特徴となって、判別しやすい。

   
ヒムロゴケ   カラフトキンモウゴケ
 

@ヒムロゴケ科(蘚類)A苔道(2011.7.16.)
B樹幹に着床しているため、乾燥すると写真のようにくるくると巻き上がっているが、水分を含む鳥のフェザーのように伸びる。

 

@タチヒダゴケ科(蘚類)A苔道(2011.7.16.)
B写真はブナの樹幹だが、地衣類(白い部分)は何かしらのアレロパシー物質を分泌して、カラフトキンモウゴケの侵略を阻んでいると考えられる。

   
イワイトゴケ    
   

@シノブゴケ科(蘚類)A苔道(2011.7.16.)
B乾燥のせいか、写真のものは糸状に這っているが、水分を含むと広がる。タンナサワフタギに着床しているものは 、なぜかこのコケしか見られないので、逆に同定の手掛かりとなる。

   
   
<沢>    
ウマスギゴケ   ムラサキシメリゴケ
 

no photo

@スギゴケ科(蘚類)A苔道(2011.7.16.)
B日本各地の低地にも見られるため、庭園などにも利用される。

 

@ヤナギゴケ科(蘚類)A
B四国のものを除き、大台のものは分布のほぼ南限だと聞く。日本で5〜6か所しか生息しない珍しいコケ。

   
【備考】 ※コケではない植物    
トウゲシバ   センシゴケ
 

@ヒカゲノカズラ科(シダ植物)A苔道(2011.7.16.)
B最初は、これをセイタカスギゴケと見間違っていたが、実際にもセイタカスギゴケやコセイタカスギゴケの中に混じって見られる。大台では、しばしば円陣を組んだような並びで目立つが、シダ植物である。

 

@ウメノキゴケ科(地衣類)A駐車場(2011.7.16.)
B名前はコケだが地衣類で、樹幹に着生する。ゴム状の本体はキノコのようなものだが、ブナから栄養分をもらっているわけではない。体内に藻類を寄生させ、その光合成によって得た養分を分けてもらう。緑色に見えるのはその藻類で葉緑体の色。地衣体の裂片の中央部には円形の小さな孔(あな)が散在する。