大台ケ原のきのこ図鑑
【きのこの学び方】 「このきのこは食べれますか?」「毒きのこですか?」自然観察会では、よくこんな質問を受ける。というより、むしろ私自身が、きのこを「食」からとらえようとしている。一方で、その変幻自在の容姿と短期間の露出という特徴から、なかなか同定も難しい。以下、佐久間大輔先生(大阪市立自然史博物館学芸員)のお言葉。 ○きのこの形はやわらかく理解しよう。(図鑑などの写真は成長の一瞬を写し取ったものにすぎない。) ○きのこは下から見よう。(つぼ・つば・柄・傘の襞にこそ同定のための特長がある。) ○まずは、「科」や「属」のくくりでとらえ、そのグループのイメージを明確にしよう。(きのこは未だ分類が進んでおらず、名前のついていないものも多いから、「○○のなかま」から始めよう。) ○いつ、どこで、どんなところから(木の種類なども)発生していたか、メモを忘れないこと。(時間もメモしておくことによって、デジカメ写真との整合性が確認できる。)
「野外観察に出たならば、ここは一つ“食”と切り離してきのこをとらえてみよう。」まず、その意識改革から必要だ。次に、観察前の基礎知識を少し叩き込んでおくと、“食”とは別の興味深い世界が広がる。
【きのこの基礎知識】 菌類とは、葉緑素をもたないため光合成を行わず、栄養を他の有機物から吸収して生活するものと定義できる。さらに菌類には、子嚢菌類(全体の約70%)、担子菌類(約30%)、不完全菌類に分類される。そして、きのこ とは、菌類の繁殖器官である子実体のことをさすが、とりわけ肉眼的なサイズのものをいう。植物で例えるなら「花」の部分。同じ菌類のカビの場合、子実体はなく、繁殖器官は肉眼でとらえにくいため、きのことは呼ばない。
一般的には、シイタケのように朽木に発生したものをきのこの代表選手と認識するが、「腐生菌」の仲間は、胃腸を外側に出した動物のようなもので、栄養源となる木材などの中に菌糸をもぐり込ませ、酵素を出して分解・吸収する分解者である。木材腐朽菌の場合、90%以上が白色腐朽菌で、あと褐色腐朽菌と軟腐朽菌とがある。 一方、マツタケの場合は、朽木には発生せずアカマツの根元に近い地面に顔を出す。このような「菌根菌」の仲間は、特定のパートナーの植物の根に付着して、植物が光合成で得て余った糖分を分けてもらって成長していく。その代わり、菌糸を根が入り込めないような土壌の隙間にもぐり込ませ、乾いた土から水分やリンの吸収を行い、それらを植物に供給する。このように分解者ではなく、植物と共生しながら生きていくきのこが菌根菌である。植物側の根に伸ばす菌糸が、植物細胞内には入らず細胞間隙に入る菌根仲間を、とりわけ「外生菌根(外菌根、外生菌根菌)」と呼んでいる。
ちなみに、変形菌(粘菌)もきのこ図鑑に掲載されていることがあるが、こちらは変形体と呼ばれる栄養体が移動しつつ、分解者であるアメーバなどの微生物を捕食する“動物的”性質を持っているので、分解者のきのこではない。しかし、小型の子実体を形成し、胞子により繁殖するといった“菌類的”な性質を併せ持つ不思議な生物である。 さらに地衣類の場合は、例えばサンゴ本体は動物で植物性プランクトンと共生しているように、カビと植物性プランクトンが共生しているのが地衣類で、名前はカビの方が代表される。
@ビョウタケ科 A苔道(2012.9.17.) B木材腐朽菌。その名の通り、鮮やかなヤマブキ色の画鋲を連想させる。
@ベニタケ科 A上道(2023.8.20.) B傷つけると乳液を分泌、最初は白いがやがて褐色となる。傘の表面と柄は同色だが、襞は白色。
@ベニタケ科 A上道(2023.8.20.) B成熟すると傘の表面が細かくひび割れする。傘、襞、柄共に白色。
@ベニタケ科 A上道(2012.9.17.) Bマツ林や広葉樹林内の地上に発生する菌根菌。傘は紅色のチョコ型で表面はぬるぬるしている。毒きのこだが、味覚として、舌に残る辛さがある。菌根菌
@ベニタケ科 A西大台(2022.10.8.) B広葉樹林に発生する菌根菌のなかま。有毒。
@テングタケ科 A西大台(2016.9.25) B傘が閉じていると真っ赤な卵のようだが、傘が開くと三度笠のようで、テングタケ科特有のつばも見られる。 大台ヶ原のものは、柄のだんだら模様がうすい。菌根菌
@テングタケ科 A西大台(2022.10.8.) B主にブナ林やナラ林に発生する。肝臓と腎臓の組織が破壊され死に至る猛毒。菌根菌のなかまで、写真は幼菌。
@テングタケ科 A苔道(2023.8.20.) B傘や柄には、粉状の外皮膜が残る。つばはもたないが、根元につぼの名残がある。
@イグチ科 A東大台(2018.7.22) B傘は赤褐色、柄にも赤いかすり模様が見られるのが特徴。管穴は、傷つけると青変する。学名は「Boletus odaiensis Hongo」で、大台ヶ原の名が、タイプ標本産地として和名・学名共に記されている。
@キシメジ科 A苔道(2010.8.12.) Bブナの枯幹に群生する木材腐朽菌。夜になると襞がほんのりと発光するきのこだが、その目的はよくわかっていない。シイタケとよく似 ているが、有毒で被害報告が絶えない。
A上道(2018.7.22.) B実際は、写真のような蛍光色では光っておらず、ほんのり青白い感じだが、長時間露出で撮影するとこんなに鮮やかになる。 f2.8/ISO1600/露出約60秒
@キシメジ科 A西大台(2022.10.8.) B前年に落ちたブナの堅果から発生する。傘は薄黄色〜黄色で、ブナの林床で散生する。
@キシメジ科 A西大台(2022.10.8.) Bブナなど広葉樹の枯木に束生する。傘は白色、襞は疎生で、上写真のように襞側から撮影すると美しい。
@ハリタケ科 A西大台(2022.10.8.) B主にブナの枯木に群生し、材の白腐れをおこす。傘の裏側の襞は針状なのが特徴。
@ホコリタケ科 A西大台(2022.10.8.) B朽ち木に群生するのがタヌキノチャブクロで、キツネノチャブクロは地上に生え全体的に粗い棘が見られる。
@ホコリタケ科 A西大台(2022.10.8.) Bブナの朽ち木に散生する。上写真は幼菌だが、関西では大台ヶ原周辺以外あまり見かけないレアなきのこ。
@クチベニタケ科 A粟谷小屋周辺(2013.9.29.) B星形の赤く隆起したところが命名の由来と思えるが、ここから胞子を吹き出す。菌根菌
@クチベニタケ科 A西大台(2022.10.8.) Bクチベニタケとよく似ているが全体的にほんのり赤く、大台ヶ原にはこちらが多い。正式な論文未発表の種らしい。
@サルノコシカケ科 A西大台(2022.10.8.) B多年生で大型と小型がある。西大台には、巨大に成長したツリガネタケも見られる。
@サルノコシカケ科 A苔道(2012.9.17.) B針葉樹・広葉樹の枯木や立木に発生する木材腐朽菌。鮮やかなサーモンピンク色は、暗い森の中ではよく目立つ。
@サルノコシカケ科 A苔道(2012.9.17.) B針葉樹・広葉樹の枯木に発生する木材腐朽菌。
@サンゴハリタケ科 A堂倉山(2015.9.27.) B広葉樹の倒木などに発生する木材腐朽菌。傘を作らずサンゴ状に分枝する個性的な形状で判別しやすい。<食用>
@アカカゴタケ科 A西大台(2016.9.25) B通常3本の腕を伸長させるが、時に4〜6本のものもある。紅色型と黄色型がある。
@チャダイゴケ科 A上道(2012.9.17.) B朽木・枯枝などに発生する木材腐朽菌。お猪口の中には、ゼラチン状物質で覆われた小塊粒が数個入っている。
@フウセンタケ科 A大台教会付近(2023.8.20.) B傘は青紫〜藤色、襞は薄紫、柄はこん棒状。
Cムラサキアブラシメジモドキは、傘と柄の間にクモの巣状の膜が張る。
@ホウライタケ科 A苔道(2012.9.17.) B朽木・枯枝などに発生する木材腐朽菌。黒く細長い菌糸束は、「山姥の髪の毛」と呼ばれ、さまざまな伝説を作り出したそうである。この菌糸束を使って分布を広げていく。
@スッポンタケ科 A大蛇ー付近(2008.6.8.) B林内の著しく腐朽した材上や厚く堆積した落葉上に生える腐生菌。顔を近づけてみるとかなり強い悪臭(人糞臭)を放っているが、これで食用となるらしいから驚きである。
@モジホコリ科 A苔道(2023.8.20.) B黄色いひも状の胞子囊が網目状に絡み合い、コケの上に覆い被さっていた。
@ツノホコリ科 A大台教会付近(2023.8.20.) B無色の胞子が表面に密生する。このような外生胞子をつくる変形菌は、世界で4種、日本ではこの1種のみ。
@ドロホコリ科 A西大台(2022.10.8.) B写真は幼菌だが、子実体の表面に突出する鱗片があり、破れて赤い粘液が出てくる。