旅をするチョウとして有名なアサギマダラは、春は暑さから逃れるために北へ向かい、秋は暖かさを求めて南下する。気温21℃前後を好むことが移動の基準となっている。このチョウは、マーキング調査による追跡が盛んなため、台湾から滋賀県までの北上例や山形県から与那国島までの南下例など驚くばかりの報告例が多々ある。また、本州のアサギマダラは徐々に南下して和歌山県
白浜あたりに集結、紀伊半島から四国・阿南市付近に上陸して室戸岬付近に集まり、風を見計らって大海原へ出ていく流れも報告されている。
産卵後1ヶ月で孵化し4ヶ月程度の寿命ということだから、北上する個体の次世代が南下するということになる。それにしてもこの長距離飛行能力の秘密だが、飛翔方法にある。上昇気流に乗って空高く上がり、次に滑空で前へ進むというトビなど飛翔方法とよく似ており、猛禽類の渡りもこの方法である。大台ヶ原では、林間を紙飛行機のように滑空していく姿が特徴的であるため、判別しやすい。
【食草】
幼虫の食草となるガガイモ科植物(キジョラン、カモメヅル、イケマ、サクラランなど)は、どれも毒性の強いアルカロイドを含む。このアルカロイドを取りこむことで毒化し、敵から身を守っているようだ。アサギマダラは幼虫・蛹・成虫と、いずれも毒々しい体色で、敵に知らせる警戒色と考えられる。
大台ヶ原では、ドラブウェイ沿いや東大台にイケマの分布が見られ、7月末の開花期には、その周辺にアサギマダラの姿が見られる。まだ調査不足ではあるが、大台ヶ原のイケマ分布地は、アサギマダラの繁殖地の1つかもしれない。
【吸蜜花】
成虫のオスは、ヒヨドリバナ属の植物やスナビキソウの花によく集まる。これらの花には、ピロリジジンアルカロイド(PA)が含まれており、オスは性フェロモン分泌のためにピロリジジンアルカロイドの摂取が必要と考えられている。オスの後翅には黒褐色の大きな斑紋があり「性標」と呼ばれている。メスに求愛行動をとる時、腹部の先端からフェロモンを分泌するヘアペンシルを出し、後翅の性標に匂いをすりつけて、メスに交尾を促すと考えられている。
大分県国東半島沖の姫島(姫島村)には、毎年5月初旬から6月初めまで、島北部のみつけ海岸に自生するスナビキソウの群生地に、何千というアサギマダラが集まるそうである。国内有数の大規模中継地といえ、3〜5日ほど滞在しては体力をつけ、次々と北に飛び立っていくそうである。
東大台や西大台では、ヒヨドリバナ属の花は見られない。したがって、例えばドライブウェイ沿いのウツギが白い花を咲かせると、他のチョウと共に吸密に群がっている姿をとらえることができる。 |