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ぬた場のトレイルカメラからとらえたニホンジカの1年

2014/9/29(発情期を前に成熟したオス、年齢は角から4歳以上と思われる。)

 大台ヶ原地区パークボランティアの会では、 大台ヶ原のニホンジカの生態を詳しく調査すると共に、自然観察会等で一般参加者のみなさんにも広く紹介する目的で、環境省の許可を得てぬた場に一定期間(2014年10月〜2018年8月)、トレイルカメラ(野生動物調査用センサーカメラ/Cuddeback Attack IR)を設置した。
 設置場所に選んだ正木峠と正木ヶ原の中間地点にあるぬた場は、正木峠南東斜面に開けた大台ヶ原随一のミヤコザサ草地にあるため、各尾根筋からのシカ集団が集まる交わり地帯であることが、GPS首輪装着個体の移動状況調査(2005年、2007年/大台ヶ原自然再生推進計画第2期より)からもわかる。
 以下、その間に撮りためた千枚以上の画像から見えてきた「大台ヶ原のニホンジカの1年」を考察してみた。



○ 落角は3月中旬〜4月中旬頃で、その後、8月下旬まで袋角が成長する。
○ 冬毛から夏毛への換毛期は5月頃で、夏毛から冬毛へは8月中旬〜9月中旬に生え変わる。
○ 非発情期の3月下旬〜8月下旬は、オス・メスがそれぞれの集団を作って行動している姿がぬた場にも見られた。
○ このぬた場に、生まれて間もない子鹿が母鹿集団と共に現れるのは、6月中旬から7月初旬までの約1ヶ月間。したがって、その1〜2週間前くらいから出産が始まっていると考えられ、6月の1ヶ月間がピークだろうか。





2017/4/13(落角間もないオス)

2018/5/8(冬毛のメス集団)




2018/6/9(袋角のオス集団)

2016/6/19(生まれて間もない子鹿)

2016/6/24(子鹿を含むメス集団)

2016/6/26(袋角・夏毛のオス集団)





2016/7/8(夏毛のメス集団)

2015/8/21(冬毛のオスと夏毛のオス)



○ 発情期のオスは首や胸が太くなり、首の周りにたてがみが生えるが、9月中旬頃から見られるようになり、この頃からオス鹿は、見違えるような獣の姿に変身していく。
○ ニホンジカの妊娠期間は約8ヶ月間(210〜230日)で、上記の出産時期から逆算すると、東大台のニホンジカは10月中旬から11月末までの1ヶ月半が交尾期のピークだと考えられる。ただ、このぬた場では交尾している写真は1枚も撮れていなかった。
○ 発情期のオス鹿は、泥浴びやフレーメン(首を伸ばし角が背に触れる程のヘッドアップ姿勢で上唇部を引きつらせて歯を見せる行動)を行い、角の突き合わせを繰り返しながらオス同士が戦い、やがて一夫多妻制のハーレムを形成する姿が想像される。ところが、このぬた場では、10〜11月の発情期間にそうした姿は撮影されておらず、むしろ、12月〜4月にかけて、たくさんの角突きが見られた。12月以降の角突きの理由として、水場・ぬた場としての優先権を争うものだろうか。

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2014/10/19(発情期を迎えたメス)

2016/11/18(首が太くなりたてがみの整ったオス)

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2017/12/23(角の突き合わせ)

2017/1/7(オス1頭に数頭のメスからなるハーレム)




2018/3/17(なぜこの時期にフレーメン)

2018/3/28(春先にも角の突き合わせ)
GPS首輪装着個体の移動状況(2005/2007年度) ※「大台ヶ原自然再生推進計画−第2期−」より