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ミズナラ(清水峰/2007) |
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ネズミはどんぐりをあちこちへ運んでは埋めておき、後から掘り出して食べる。でも時には忘れられ、どんぐりはそこで芽を出す。どんぐりにとって、ネズミはすみかを広げるための大切な存在で、ネズミとはもちつもたれつの共存関係にある。
【ヒメネズミやアカネズミの場合】
大台ヶ原におけるヒメネズミの越冬生残率を調査した結果によると、ブナ堅果の生産量が多い年には、秋の個体数が多く越冬生残率が高い傾向にある。しかし、ミズナラだけが豊作であっても越冬生残率は高くならないことがわかっている。ブナの堅果は消化率も窒素消化率も約70%と高く高質の餌であるが、ミズナラの場合はタンニンが高濃度で窒素消化率が30%と低いことが理由と考えられている。
どんぐりの主な成分はデンプンだが、その特徴的な成分として苦み、渋み成分であるタンニンが含まれている。どんぐりに含まれるタンニンは主に「加水分解型タンニン」である。タンニンを多量に摂取すると、消化管に損傷を与え、腎臓や肝臓に負担を与えることもある。では、ヒメネズミやアカネズミは、どうやってタンニンを克服しているのだろう。森林総合研究所島田卓哉氏(東北支所)らが行った研究によると、アカネズミのタンニン克服のキーワードは「馴化(馴れ)」だという。では、なぜ「馴化」が起きるのか。
まず最初に、タンニンの毒消し役として重要なのは、人も持つ「タンニン結合性唾液たんぱく質」である。この唾液はタンニンと結びついて安定した複合体を作り、有毒な働きを抑える。必要な時には分泌量が増えるが、必要でなくなれば3日から1週間で減ってしまうという。次に、タンニンを分解する酵素を出す「タンナーゼ産生腸内細菌」も一役買っているようだ。唾液によって結合した複合体は、この腸内細菌の作用で分解され再利用されるという計2段階のメカニズムによって、タンニンに富むどんぐりを餌としているわけだ。
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【どんぐり側の対抗戦略】
○ ネズミは大きなドングリを食べる傾向がある。どんぐりが大きいほど有利とは限らない。
○ どうやらネズミはちょっと味見をしたりして、タンニンが少ないものを選んで食べているらしい。それならタンニンを増やした方が、どんぐりが子孫を残すには有利に思えるが、見向きもされなくては遠くへ運んでもらえない。
したがって、どんぐりは大きくても小さくてもダメ。タンニンが多くても少なくてもだめ。つまり、どんな事態にも備えられるように、いろいろと用意しておくのが、どんぐりの生き残り戦略。そのために幅広い変異を持っていると考えられる。人の生き方にも応用したい柔軟な戦略である。 |
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ヒメネズミ
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【オニグルミとニホンリスの貯食行動について】
多摩森林科学園森林生物研究室・樹木研究室が、小型の無線発信器をオニグルミの実に付け、運ばれた位置を受信機で検索したところ
、以下のような調査結果が報告されている。 |
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すぐ食べる
42% |
貯食する 58% |
後日食べる
39% |
アカネズミ
が盗む
12% |
発芽を
待つ
7% |
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まず、オニグルミの実は156個運ばれ、それらは地面の落ち葉の下や樹上の枝の間に貯食された 。その貯食場所は母樹から15m以内
というのが多いが、1〜168mと変異も大きいようだ。オニグルミとニホンリスは、やはり共存の関係。オニグルミは、栄養価の高い実をニホンリスに提供することによって、 |
今度は種子として遠くへ運んでもらわなくては意味がない。上記の調査結果によると、最終的に7%の種子が食を免れ、発芽を待つこととなった。
オニグルミの種子の場合、「動物散布植物」であると共に「水散布植物」でもある。この木は河岸での自生が多く、落ちた種子が川の流れにのっかって自生地を広げていくというスタイルだ。
堅果に中には空気層があって、実際水に浮く。どんぐりの場合、水に浮くと虫が食っている証となって発芽も難しいが、オニグルミの場合、遠くへ流れ着くための浮き輪を内蔵しているというわけだ。したがって、先の7%という数字以外にも、発芽を待つ兄弟たちがたくさんいたはずだと考えられる。
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オニグルミ |
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