Nature Guide
                         くりんとの自然観察ガイド

           
   
 高尾山の元禄ブナ

高尾山のブナ

 関西人にとってはあまり馴染みのない高尾山だが、新宿から電車で60分弱という交通の便の良さに加え、なんとエピソードの多い山だろうか。
○修験道の道場「天狗伝説」
○「花の百名山」高尾山で最初に発見された植物63種
○標高599m謎のブナ自生地
○東京ムササビ天国(NHK『ダーウィンが来た!』で放映)
○世界一の登山者数
○軽登山靴「ナイキ・タカオ」誕生
○ミシュランガイドで三つ星の観光地

この夏、東京滞在の休日を利用して、高尾山を登ることにした。JR中央線沿い三鷹にはジブリ美術館もあり、午後2時からのチケット。しかし、標高485m付近まで(山頂599m)ケーブルカーを使えば、1日で両方を欲張ることのできるアプローチの良さに、関西からの旅人は大満足であった。

イヌブナ タマアジサイ

【標高599m謎のブナ自生地】
 高尾山には樹齢200〜300年を越える大木のブナが自生する。現在90本ほどが確認されているらしい。標高600mに届かない山では極めて希有な植生で、実際、高尾山周辺の同じ標高の山にはブナは皆無である。この地域は、暖帯系の常緑広葉樹林と温帯系の落葉広葉樹林の境目に位置するという環境を考えてもみたが、実生や稚樹、若木など次世代がまったく育っていない。つまり、ブナの高齢化社会が突如飛び地のように存在するという珍しい現象だ。
 一説では、江戸時代半ば(1700〜1800年頃)は、世界的に寒冷だったことが証明されており、小氷河期と呼ばれている。この時、何かのきっかけでブナが芽生え、今日まで生きながらえていると考えられていて、「元禄ブナ」とも呼べれている。ただ、残念ながら次々世代は育たず、やがて絶滅する時が来るのだろうか。
 なお、同属のイヌブナの方は、標高500m以上の尾根上に分布している。イヌブナはブナよりもやや標高の低いところにみられるが、ここのイヌブナの場合、ひこばえも見られ次世代が育っていると考えられる。

 一方、薬王院境内には、樹齢700年とも1、000年とも語られるスギの巨木が何本も存在し、東京都指定天然記念物に指定されているスギ並木をはじめ、高尾山のもう一つのシンボルとなっている。また、薬王院への祈願が成就した参拝者が、杉苗料として金銭を奉納する慣習と残されているそうで、参道沿いには北島三郎や司洋子の寄進者名が見られた。

修験者・僧侶の読経 天狗の落とし文
 

【高尾山の天狗伝説】
 高尾山中腹に位置する薬王院は、奈良時代、行基によって開山されたと伝わるが、室町時代に京都の醍醐寺から俊源大徳が入り、飯縄権現を守護神として奉ったことから、修験道の道場として繁栄することとなる。以後、山中を駆け回る修験者の姿が天狗に見えたのか、はたまた杉の高木を飛び回るムササビを天狗と見間違えたのか、高尾山には古くから天狗信仰の霊山としても知られている。
 【大天狗】真っ赤な顔と高い鼻、団扇を持ったお姿が大天狗。その神通力で開運をもたらすという。
 【小天狗】青い顔にカラスのような嘴、剣を構えたお姿が小天狗。別名烏天狗。その剣で魔を断つという。

 薬王院では、土曜・日曜の午前10時より、境内の天狗像の前で山伏・僧侶がお経を唱えた後、「天狗の落とし文」を配布している。落とし文は全100種類ほどあるようで、私がこの日いただいた落とし文7枚には、それぞれ次のような文が書かれてあった。首都圏在住なら、100種類集めるのだが…。
 ○越えられない壁とは自分自身で作る欲
 ○日々に悔いなく日々に反省
 ○耳に痛いことを言ってくれる人が本当の友である
 ○志あればいつでも再出発出来るはず
 ○ライバルは人を育てて人を磨く
 ○付き合う人により善くも悪くもなるものです
 ○明るい顔のもてなし明るい声のもてなし
 ○後悔しないように懸命に一つのことに向かう

 
   

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