Nature Guide
                         くりんとの自然観察ガイド

           
   
 池の中の日中米カメ戦争

ニホンイシガメ(左)&ミシシッピアカミミガメ(右)/大澤寺

 桜の季節も終わり、日に日に陽ざしが強まってくると、近くのため池ではカメの甲羅干しを見かけるようになる。冬眠から目覚めたカメたちは、変温動物のため体温をあたためている。そんな身近な池の中で、今、日中米のカメ戦争が起きている。
 ニホンイシガメは日本の固有種で、本州・四国・九州に生息している。一方、クサガメの方は、日本の個体群に関して化石の発見例がなく、江戸時代中期以降にしか文献記録がなく、明治時代に至っても分布地が限られ希少であったらしい。元来、朝鮮半島や中国東部が原産で、人為的に移入されたとも言われている。したがって、一昔前まで本州の淡水ガメと言えば、イシガメ、クサガメに加えスッポンの3種ぐらいであった。
 しかし、アメリカで養殖が始まったミシシッピアカミミガメは、アメリカ国内でも大量の個体が流通し、1980年代以降日本にも多く輸出されてきた。縁日やペットショップで、その幼体が「ミドリガメ」の名で販売され、飼い主の手元をはなれたこの外来種は日本各地の水場で繁殖を続けることになる。水草も食べる雑食性だが、意外に敏捷でトンボなども捕まえて食べ、ザリガニの殻もものともしない。
 日本の環境に適応したミシシッピアカミミガメの割合は全国で大きく伸び、一方でクサガメやとりわけ在来種のニホンイシガメの生息域を脅かしていると考

 
えられ、日本生態学会は侵略的外来種ワースト100に指定している。このよう  

クサガメ/大澤寺

に池の中では、日中米の静かな戦いが勃発しているのだ。ただ、この物々し
いネーミングとは裏腹に、当の本人たちは一見仲良く折り重なるようにして日光浴をしていることも多い。戦場では華々しいバトルは少ないにしろ、閉鎖された環境での食料の争奪戦を考えたとき、すでに三国時代が続いており、地域によってはミシシッピアカミミガメのタフさが徐々に領土を広げているようだ。

  ニホンイシガメ クサガメ ミシシッピアカミミガメ
イシガメ科イシガメ属 イシガメ科クサガメ属 ヌマガメ科アカミミガメ属
別名 ゼニガメ(幼体) ミドリガメ(幼体)
分布 本州・四国・九州

朝鮮半島・中国東部原産
(日本には江戸時代頃移入か?)

アメリカ合衆国ミシシッピ川原産
形態

○最大甲長♂14cm、♀21cm
○甲羅に1本の隆起した稜線。

 

○最大甲長♂20cm、♀30cm
○甲羅に3本の隆起した稜線。
○危険迫ると、後ろ足の付け根あたりから悪臭を放つため臭亀(あるいは草亀)。

○最大甲長28cm
○眼後部から鼓膜上部にかけて赤や赤橙色のやや太い筋模様が入る。鮮やかな緑色は子供のうちだけ。

生態

○非常に澄んだ水を好み、山間の池や渓流が主な生活の場。
○雑食性だが、どちらかというと動物食を好む。

○流れの緩やかな河川や池沼、水田などに生息する。
○雑食性で、大型個体は貝類や大型の甲殻類も噛み砕いて食べる。

○植物食傾向の強い雑食だが、魚類、カエル、昆虫、甲殻類、貝類なども食べる。
○他のカメ類の卵を食べる習性があり、在来のカメ類との競合のみならず、卵捕食による影響も及ぼしうる。
○交尾は春と秋にみられ、産卵は4月から7月にかけてみられる。

 

○産卵は5月中旬から
○子供の頃はカナヅチで、岸部の水たまりや田んぼなどのごく浅いところで生活を始める。
○変温動物で、冬の間は水の中や落ち葉の下や土に潜って冬眠をする。冬眠から目覚めるのは4〜5月頃。カメの日なたぼっこは体温を高めるため。

 
   

 
   

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