Mountain Guide
                         くりんとの登山ガイド

           
   
  三顧の礼をもって琵琶の滝に会う、百合ヶ岳でニホンカモシカに会う
琵琶の滝(二段目の滝壺までは、大きな岩が点在しルートは不明瞭)

 モンベル・アウトドア・チャレンジ(M.O.C.)が主催するトレッキング・ツアーで、「静寂の名峰百合ヶ岳」というのが目に留まった。「大峰の名峰とうたわれているのに、百合ヶ岳はまだ知らない」と焦った私は、早々に調べてみた。すると、川上村下多古に登山口があり、琵琶の滝に寄り道をしながら、標高1346mの百合ヶ岳をめざす周回コースであった。

 登山口は標高700m、山頂までの標高差約650m。これなら楽勝と思い込んでしまった私は、午前10時に登山口を出発、しかし、後で後悔する。まず、琵琶の滝をめざすため、この周回コースは時計回りで進める。梅雨が明けたとは言え、不安定な夏の気圧配置は、大峰山脈の東側に積乱雲を発生させやすいのか、11時頃から強い雨。吊橋を越えた辺りから、登山道も悪路で、滝見台から垣間見えた琵琶の滝を尻目に撤退を決断する。しかも、ここはヤマヒルが元気な場所だと知った。

 2週間後に、リベンジ登山を計画。やはり、午後からの降雨が予想されたので、今回、午前8時に登山口を出発。ヤマヒル対策も施し、45分ほどで滝見台よりさらに先の滝下近くまで辿り着く。しかし、ここから滝直下に降りて行くには、苔むした丸木製の簡易な梯子を使わねばならず、とても危なっかしい。結局、梯子を降りず、滝の遠景をカメラに収める。高さ約50m、滝壺が2つある二段式の琵琶の滝は、落差133mの那智の滝の半分にも及ばないものの、その姿はよく似ていて、私は一目惚れした。

【静寂の名峰百合ヶ岳】
 来た道を百合ヶ岳登山道との分岐まで引き返す。琵琶の滝への寄り道には、往復55分要したことになる。そのせいとは思えないが、標高900m付近から急傾斜に足取りが重く、立ち止まって息を整える頻度が多くなってきた。地形図の等高線を見ると、なるほどと再認識、あまくみていた。さすが川上村と思わせる人工林の中、その斜度はさらに数値をあげていく。このコース最大の難所である大きな岩の壁が現れた。アカマツの幹を足場にロープをたぐりよせて慎重によじ登る。ここを過ぎた頃、やっと人工林からブナ林に代わり、山頂まで尾根伝いにしばしの「静寂の名峰」歩きが実現する。
 山頂の木札には「大所山」という名の木札も立てられており、百合ヶ岳と2つの名称があるようだ。この日も、午前11時頃から、雷の音を耳にするようになり、昼食もそこそこに下山を急ぐ。尾根歩きから、やがて人工林の中の下り坂に変わろうとする分岐点、ここに大きな岩がある。その岩の上から川上村集落を望むことができるが、1頭のニホンカモシカが先客だったようだ。私たちの気配に振り向いたウシ科のこの哺乳類は、ニホンジカのようにすぐには逃げない。しばしにらめっこの状態が続き、ポケットからスマホを取り出し、カメラを向ける“間”を待ってくれる。やがて、急峻な岩場が得意とする堅牢な足で、垂直に下り降りて姿を消した。この日、これまで要したすべての時間は、このニホンカモシカに遭遇するための意味ある間合いだったのだ。
 ここから駐車場までは、人工林の中をひたすら下る。

滝口は2つあり、渇水期、右岸側に流れはない
 
吊橋下にはイワタバコが自生   樹木が成長し、滝見台からはよく見えない
 
この丸木階段が曲者です   二段目の滝直下
 
窟の祠に手を合わしいざ滝口へ   左岸側の滝口

【琵琶の滝】
 後日、なんと琵琶の滝の滝口に登り立つことができることを、知り合いの山日誌から知った。添えられた写真からは、鳥となって飛び立つことができるような断崖が目に飛び込んできた。三顧の礼を試みた私に、今度は青空が待っていてくれた。
 2回目に訪れた滝壺への降り口付近から、さらに左手に延びる登山道がある。イワタバコがびっしりと岩肌を覆い尽くした沢を登るのだが、ここが唯一迷いやすい。窟に安置された祠に手を合わせて、やがて滝口に到着する。滝口は2本に分かれており、増水したときには、両方の滝口から放水されるようだ。那智の滝では、毎年の恒例行事として、こうした場所に神職の方がしめ縄を張っているニュースを見たことがあるが、この場所もよく似ている。しばし居たいような、一方で、無事下山したいような2つの気持ちがせめぎ合う中、後者が勝ったタイミングで気持ちよく下山した。
 再び滝壺への進入路分岐まで来ると、2組のグループが滝壺付近くに降り立っていた。「へぇっ、この苔むした丸太階段を、家族連れも降りたのか?」YAMAPなどの登山情報もよく利用するが、丸太階段の信頼度やその先の迷路のような岩石道は、目の当たりにした人の行動からしか知り得ない。もし、ここでだれとも出会わなかったら、そのままスルーしていたが、ささやかな冒険心が一気に反応し、丸太階段に足を進めた。(とはいえ、ここは非常に危険なので、肝試しをする場所ではない。)河原に降りたってからも、なんとなく浮かび上がってきた踏跡を進むと、2つの滝壺の下段の方までたどり着けた。すごい水しぶきに虹が写っている。案内者がいれば、もう一段上まで行けるようだが、ここは自重する。
 百合ヶ岳登山はきつくて健脚度を考慮する必要がある。また、琵琶の滝は、案内できる人と同行した方が安全で3倍楽しむことができる。ヤマヒル対策と夏の天候の急変も付け加えておきたい。

このコース随一の眺望箇所にニホンカモシカ
 
駐車場   百合ヶ岳への分岐路からいきなり急登
 
人工林の中さらに斜度が上がる   このコース一番の難所
 
人工林からブナ林に代わると尾根歩き   山頂1346m
 
背の伸びた草をかき分け下山   ヤマヒル
 
 
   

 
   

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