Mountain Guide
                         くりんとの登山ガイド

           
   
 その名も「迷滝」

落差約50m圧巻の壁面

 手に取ったある会報誌の表紙に、奈良県内の見事な滝の写真が映し出されていた。県内ならば、名の知られたたいがいの滝は知っているつもりだったが、「迷滝」という名の滝は初めて耳にした。調べてみると、五條市大塔町篠原にある滝で、宮ノ滝でも、篠原滝でもなく、舟ノ川の湯ノ又に合流するヒウラ谷の奥にある幻の滝である。同じ行くなら紅葉の季節にと、11月一週目の休日に赴いた。事前情報として、陽光の角度から、午後に到着した方が影が入らず写真撮影に向いているということだったが、当日は、曇り空だった。
 ちょうど1年前、湯ノ又から中尾を使って明星ヶ岳に登り、帰路はレンゲ道、トッポリ尾を通って再び湯ノ又に下りてきた。その中尾とトッポリ尾の谷間を流れるのがヒウラ谷なのだが、「迷滝」の情報はまったく私の耳に入っていなかった。奈良県人として不覚である。湯ノ又に車を停め、ヒウラ谷に沿った林道を辿る。この林道の最初の500mほどは、トッポリ尾からの帰路に使った道なので様子は分かっていた。かつて木材の搬出に車道として整備された林道だが、最近は使われることなく、落石や崩落で4WDといえども進入は難しい。しかし、徒歩なら危険箇所は少なく、ツキノワグマとの出会い頭の遭遇だけを気にかけながら歩数を稼ぐ。紅葉シーズンということもあるのか、途中、1組の登山客と出会った。
 林道の中程に、「迷滝」の遠景を見通せる箇所がある。約1時間ほどで林道の終点。そこから川へ下りるが、その先がよくわからない。数少ないテープを手がかりに、川を渡り、やせた斜面を右往左往しながら登っていくと、想定を越えた巨大な滝の壁面が現れた。鮮やかに色づいた樹々の紅葉が、その額縁となって演出している。それにしてもこの壁面は圧巻だ。神のなせる技としか思えない。
 あらためて「迷滝」の命名由来を考えてみる。近年に施設されたこの度の林道がなければ、ヒウラ谷を遡上するルートが考えられる。ひょっとすると、アメノウオのコアな釣り客には、知られた魚止めの「迷滝」だったのかもしれないが、しかし、この滝に辿り着くまでに、幾つもの魚止め、いや人止めの難所があるに違いない。「迷滝」に辿り着く前、地形図上では2つの滝が記されており、それと勘違いして引き返したかもしれない。旧大塔村の村史をめくってみたが、この滝については一文字も触れられていなかった。
 もう一つ、この巨大な壁面の滝の形成過程が気になる。同じ紀伊半島の「那智の滝」の場合、柔らかい堆積岩が浸食されて、やがて堅い流紋岩(急に冷えた火成岩)が露わになった。つまり、「那智の滝」の壁面は流紋岩である。ここ「迷滝」周辺は、フィリピンプレートが沈み込む際に形成される付加体の1つ四万十帯で、その中の日高川層群。つまり、砂岩や泥岩の堆積岩体で、「那智の滝」のような、複数の地質の境界上ではない。ならば、断層あるいは崩落によるものか。もう一度国土地理院の地形図を眺めてみると、この滝を中心に標高1050mの等高線に沿って500〜600mにわたり高さ50mの断崖がそびえている。地質学に不案内の私は、これぐらいの素人推理しかできず、ここでも迷走してしまった。

紅葉に包まれた迷滝

林道の途中に1ヶ所展望地あり

 
 
   

 
   

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