Mountain Guide
                         くりんとの登山ガイド

           
   
  錦の昇竜が棲むナメゴ谷から行者還岳へ

紅葉のナメゴ谷

【ナメゴ谷】
 天川村と上北山村を結ぶR309号線「行者環林道」に沿うナメゴ谷は、紅葉の絶景スポットとして知られている。針葉樹林の中の尾根筋だけヤマザクラなどの広葉樹が残され、まるで竜が昇るような新緑や紅葉のパッチワークが、他に類を見ない景観を作っている。昭和30年代にスギを植林する際、 「東大の先生のご指導があった」と伝え聞いた。水分の多い広葉樹を防火林として残したのか、それとも崩れやすい尾根筋の植林を避けたのか、 いずれにしても予期せぬ芸術を生み出した。
 見頃は、ヤマザクラの咲く季節や(4月末〜5月初旬頃)やその後の新緑、そして、11月上旬の紅葉期。ただ、1980年代にこの林道を利用した時きは独り占めだったのが、今や、バスを使った団体客も訪れるほどの賑わいで、駐車スペースを見つけるのに右往左往する時間帯もある。また、この竜たちを向かいから眺める展望ポイントは真南向きで、午前も午後もほとんど逆光である。したがって、写真を撮ると白っぽい紅葉しか現れず、日の出から2時間ぐらいまでがシャッターチャンスである。

【行者還トンネル東口〜行者還岳(1546.6m)】
 行者還トンネル西口は、弥山や八経ヶ岳をめざす玄関口だが、人気の少ないトンネル東口からも奥駈道に通じており、行者還岳をめざすにはこちらの方が近い。トンネル東口に向かって左手に未舗装の林道が延び登山口に至るが、2018年現在、台風や豪雨で林道の一部分が崩壊している。林道を数百メートル下ったところに登山口があるが、そこからしばらくは踏み跡の曖昧なところもあり注意されたい。登山口(1100m)から奥駈道の稜線上にある一ノ垰(1460m)まで、標高差360mを1時間余りかけて登る。途中、ミズナラやトチノキが多く、秋には、そうした堅果にも目を奪われる。
 ナメゴ谷が紅葉で人々が賑わう頃、行者還岳に至る奥駈道には、もはや紅葉は残っていない。ただ、東に開けた尾根上からナメゴ谷遠景の紅葉を望むことができる。一ノ垰から間もなく、大峯五十七番靡「一の多和」を通過する。自然石を使った護摩炉跡と思しきものやたき火跡も見られ、行場とわかる。行く手前方の右手には「大普賢岳−小普賢岳−日本岳」が3つのこぶとなって現れる箇所があり、また左手には、行者還岳が意外に丸みを帯びて現れ、その遠景に稲村ヶ岳やバリゴヤノ頭がそびえる。
 現在の行者還小屋は2003年に完成したもので、ログハウスの中に3部屋と2つのトイレがある。その背後に行者還岳が立ちはだかるが、南壁は垂直に近い岸壁となり、熊野から来た役行者をも阻んだ急峻な峰として命名されたという話に納得してしまう。頂上には、峰の東側を通る奥駈道をさらに進むが、すぐに大峯五十八番靡「行者還り」の祠がある。自然石を使って三角形の祠がうまく組み立てられている。やがて、奥駈道は急峻な岩場を突き進んでいくが、木梯子が助けとなる。行者還岳の北斜面はなだらかで、山頂には北側から登る。したがって、大台ヶ原から大峯山系を望むと、行者還岳は南に傾いた烏帽子のような形状に見える。山頂は樹木で覆われていて見通しは悪く、金属製の錫杖(しゃくじょう)が出迎えてくれる。

【カレン】
 天然の水は多かれ少なかれ空気中の二酸化炭素CO2を溶かしごく弱い酸性を示す。CO2を溶かした水は、地表に露出した石灰岩CaCO2を少しずつ溶かし、頂上部から下部に向かう溝状の模様を作り出します。こうした石灰岩表面にできた溝状の凹みをカレンと呼ぶ。カレンがたくさん墓石のように並ぶ地形をカレンフェルトと呼び、大峯山系では、四寸岩山の南・足摺ノ宿と行者還岳南(大きな露頭はないが、地下は一続きであろう)や洞川の観音峰がある。

 
行者還岳と山小屋   行者還岳山頂
 
左から大普賢岳・小普賢岳・日本岳   大峯五十八番靡「行者還り」
 
ナメゴ谷のアマゴ   新緑のナメゴ谷
 
11月上旬の紅葉   4月下旬ナメゴ谷のヤマザクラ
 
 
 
   

 
   

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