Mountain Guide
                         くりんとの登山ガイド

           
   
 大峰修験の行場・大普賢岳
笙ノ窟で、行者たちの読経が響く
   
@指弾ノ窟(したんのいわや)   A朝日ノ窟(あさひのいわや)   B笙ノ窟(しょうのいわや)

鎖場と鉄ばしごが続く
   
  C鷲ノ窟(わしのいわや)   C鷲ノ窟の役行者
   
  大普賢岳(だいふげんだけ) 1779.9m   和佐又ヒュッテからのぞむ大普賢岳

 川上村と上北山村の村境をなす新伯母峯トンネルを南へ抜けるとすぐ右折。あとは道なりにヘアピン林道を上っていくと、和佐又ヒュッテ及び和佐又スキー場に到着する。10月下旬ともなれば、周辺は紅葉の美しいところで、とりわけカエデ科の種類が多い。ウリハダカエデ、コミネカエデ、アサノハカエデ、コハウチワカエデ、ヒナウチワカエデ、オオモミジ、エンコウカエデ、オオイタヤメイゲツ、イタヤカエデと紀伊山地のカエデ科はたいがい見つけることができる。

【和佐又山1344m】
 大台ヶ原ドライブウェイから見ると、美しい円錐形をしている。和佐又ヒュッテから30分程度で山頂に立つことができるので、小さい子ども連れた紅葉狩りにはちょうどよい。また、積雪期はスキーやソリ遊びを楽しめるゲレンデと化すが、スノーシュー・トレッキングがお薦めである。周辺はノウサギやニホンジカが多く、積雪に残った足跡を追いかけていくアニマル・トラッキングという趣向はどうだろう。

【大普賢岳1780m】
 さて、この和佐又ヒュッテから大普賢岳までの日帰り登山が人気である。また、大普賢岳から南下し、七曜岳を越えたところから無双洞へ下りヒュッテに戻ってくるという周回コースもあるが、こちらは健脚向きとなる。
 標高1150mのヒュッテからスキー場の一番てっぺんを目指して歩くと登山道の入口がある。尾根に出る辺りからブナが優勢種となり、三叉路で左をとれば和佐又山、右の尾根に沿った道をとれば大普賢岳方面となる。このルートには、ところどころに秩父帯のチャート層が露出しており、鉄梯子や鎖を使ってよじ登る岩礁がいくつもある。慣れればこうしたアプローチもそのスリルを楽しむことができるが、登山初心者には足下の震える難所であり、熟練者と同行するのが望ましい。大普賢岳山頂は、360度視界が開けすばらしい眺望である。真西には、大日山・稲村ヶ岳・バリゴヤの頭の稜線が手に取るように見える。また、真南には、大峯山系の稜線上に国見岳・七曜岳・行者還岳が連なり、遙か行く手に弥山・八経ヶ岳がそびえ立つ。
このルートの特徴として、指弾ノ窟(したんのいわや)・朝日ノ窟(あさひのいわや)・笙ノ窟(しょうのいわや)・鷲ノ窟(わしのいわや)など、修験道に関係する行場が登山道である。こうした窟も、チャート層を人為的に開削したと思われ、板状層理を利用してくさびを入れれば容易に窟ができる。宗教的な祠として利用以外に、夜露をしのぐ宿泊地としても重宝されたに違いない。
なかでも、笙の窟は、日本岳の絶壁に開いた洞窟で、窟の上の岸壁を遠くから見ると雅楽の楽器の笙に似ているところからこの名が付いたと言う。今でも40畳ほどの広さが見てとれるが、かつてはもっと広く、多数の鉄釘の出土が見られることから、木材を使った籠堂あるいは風雪よけの壁があったのではないかと考えられる。中世には、9月9日から正月3日までの100日間に渡り、五穀が断った冬籠もりなども行われた。平等院僧正行尊、僧正行慶、日蔵上人、静仁法親王、円空などの名前が記録に残っている。

【国見岳1655m・七曜岳1584m】
 大普賢岳山頂から南下し、七曜岳をめざす。大普賢岳から急勾配を下ると、やがて展望の開けた「水太覗(みずぶとのぞき)」に出る。眼下に水太谷、遠くに大台ヶ原をはじめとす台高山系が望める。弥勒岳(1655m)を通過すると、今度は「内侍(ないじ)落とし」「薩摩転(さつまころ)げ」といった難所に至る。今でこそ鎖が施されているが、かつては岩場のわずかなとっかかりに足をかけ、木々の幹や根っこをつかみながら急峻な岩場を行き来したと想像でき、こうした道中も行場の1つであったのかもしれない。国見岳(1655m)山頂は、奥駈道から少しそれ山頂を目指す必要がある。
国見岳と七曜岳(しちようだけ)の鞍部にある「稚児泊(ちごのとまり)」は、平坦地で行者一行の集団であっても十分に野営できる広さがある。稚児泊から七曜岳にとりかかっていくと、「七ツ池」あるいは「七ツ釜」「鬼の釜」とも呼ばれるすり鉢状の大きな窪地がある。石灰岩層が溶け去って残った窪地とも考えられているが、理源大師聖宝が大蛇を退治したという伝説も残る。七曜岳山頂(1584m)には碑伝も多数置かれており、59番靡の様相がみてとれる。

【無双洞】
 七曜岳を下りきった三叉路を、まっすぐ南下すれば行者還岳に通じるが、東にとり無双洞をめざすと、やがて水太谷の源流である「水簾の滝」の右岸上に出る。
一帯は厚い石灰岩体で、大小幾つもの割れ目から湧水が見られるが、なかでも一番大きいのが無双洞である。この洞窟の入口は上下二段になっているが、奥行きは少なくとも150m以上続くらしい。この地点より上部に降った雨水が、岩盤の割れ目を伝って流れ出てきたもので、七曜岳の七ツ池も漏斗の1つとなり、その雨水がここに至っているとも聞く。こうした幾筋もの湧水が束ねられ水簾の滝となって一気に流れ落ちる。
 和佐又ヒュッテへの帰路は、崩れやすい岩場もあり落石に注意しなければならない。10月中旬、この岩場でダイモンジソウの開花に出くわし心が安らいだ。途中、「底無し井戸」も確認しておきたいが、注意しておかないと見過ごしてしまうだろう。

 
水太覗   薩摩転げ
 
無双洞   水簾の滝
 
 
 
   

 
   

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