Mountain Guide くりんとの登山ガイド
行場の雰囲気漂う山道(左・『風の王国』に登場する奉燈)
【祐泉寺〜馬の背〜雌岳〜岩屋峠〜祐泉寺】 奈良県有形民俗文化財の傘堂や當麻山口神社を経て、二上山雌岳山腹の祐泉寺(香芝市染野)に至るが、 当麻寺や道の駅ふたかみにも近く、奈良県側では、人気のある二上山登山口である。祐泉寺は988年(永延2)の開創とされ、現在は天台宗四天王寺末、本尊は室町期の釈迦如来である。本堂などの建築物は比較的新しいが、山中の古刹といった趣があり、山門の屋根に積もった落ち葉にも風情がある。この寺院から山道はYの字に分かれていくが、左は岩屋峠、右は雄岳と雌岳の鞍部である馬の背に至る。雌岳登頂を目指して周回するなら、傘堂を起点に往復2時間といったところだろうか。 私の好きなコースは、Yの字の右を選び、祐泉寺の山門を通り抜けていく山道である。くぐってすぐ左手に「二上嶽南叡山□修学院□祐泉寺」「南無阿弥陀佛の御名をよぶ小鳥あやしや□たれか□ふたかみの山」と銘のある石柱(1922年)が建つ。五木寛之の小説『風の王国』にも、キーワードの1つとして登場する石柱である。ここからすでに、行場の雰囲気。さらに進むと、凝灰岩をナメ床のように浸食して流れる沢と、その同じ岩盤を手掘りして造ったような歩道とが一体となって出迎えてくれる。途中、イチョウの大木が銀杏を落としているが、かつて寺院の僧侶が植えたものだろうか。また、道を塞ぐかのような巨石にも伝説ありげなにおいがする。私のイメージの膨らませすぎかもしれないが、かつての祐泉寺の僧侶たちの足跡が感じられるルートである。 馬の背にはトイレがあり、ここから雌岳山頂も標高差約40mで一息に登れる。一方、岩屋峠からは標高差120mで、直登の登りは何度も息が切れる。そういうこともあって、この周回ルートは馬の背を経て雌岳山頂、そして岩屋峠へ下る道順がお薦めである。岩屋峠から祐泉寺までの下山ルートは沢に沿うが、ここでは真っ黒な溶結凝灰岩の河床が見られる。 祐泉寺を過ぎて、すぐ左手に登山道が口を開けている。ここから登ると、二上山ふるさと公園からの登山道と合流し、雄岳に至る。このルート上に「二上山の覗き」と呼ばれる断崖絶壁があり、取り付きは黒い龍の背中のようである。山上ヶ岳の西の覗きを思わせる絶景であり、大和盆地にむけて展望が開けている。祐泉寺から15分ほどなので、体力に余裕があれば立ち寄りたい。
【岳のぼり】 『西国三十三ヶ所名所図会』1853年(嘉永6年)刊によると、「葛木二上神社二座」の項で、「岳のぼり」と思われる記述が見られる。以下、私の意訳。「二上山雄岳にある葛木二上神社二座において、毎年3月23日(旧暦)、近村より招かれた薩摩の修験者と當麻寺の僧侶によって護摩供が執り行われ、五穀成就を祈願される。この日は、山上で酒の上温(上燗?)、肴の前火(さきび)売、覗き、からくり、放下師(曲芸)などが出て賑わう。隣村の老若男女たちが、険しい山登りも苦にせず、戯れながら登りこの法会に参加するという。」 これが、後に「岳のぼり」と称するようになり、二上山を水源とする「嶽郷四十八ヶ村」(現在の香芝市、葛城市、大和高田市に含まれる48大字)に親しまれる伝統行事となった。 香芝市在住の私の知人によると、50年ほど前には、近隣の小学校も、岳のぼりの日に合わせて半日授業となり、昼からお弁当を持って野山に出たそうだ。しかし、そうしたことも、今では聞かれなくなったという。現在は、二上山美化促進協議会主催による清掃活動を兼ねたイベントが、この日(4月23日)に合わせて行われており、新緑の美しい時期も重なって、多くの家族連れなどで賑わっている。このイベントは、奈良県葛城市(大池登山口)・香芝市(上ノ池横登山口)、大阪府太子町(万葉の森登山口)で同時開催されている。
【所要時間】 ○ 傘堂・・・祐泉寺・・・馬の背 (上り・約1時間) ○ 馬の背・・・雌岳・・・岩屋峠 ○ 傘堂・・・祐泉寺・・・岩屋峠 (下り・約35分)
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