2017年(平成29)台風第21号は、超大型で強い勢力を保ったまま、10月23日に静岡県御前崎市付近に上陸したものの、大阪府では、台風を取り巻く雨雲や本州付近に停滞した前線の影響により、18日から23日にかけて長期間にわたり雨が降り続け、記録的な大雨となった。金剛山でも、その時の爪痕と思われる斜面の大崩落が、カトラ谷や妙見谷それぞれの源流部で見られる。そうした箇所は、地盤や斜面が非常に不安定で浮き石も多く、また地形も大きく変わっているためルートを見誤りやすい。金剛山といえども、2018年8月、妙見谷の崩落地では滑落死亡事故が発生した。とりわけ沢登りには、熟練者との同行や入念な下調べ、そして冷静な判断が求められる。
カトラ谷は、ゴールデンウィークの頃に見られるニリンソウのお花畑が楽しみなルートであるが、妙見谷は7月下旬〜8月上旬のイワタバコの開花が見られる。金剛山において妙見谷だけがイワタバコの自生地ではないが、花が少なくなる8月、イワタバコの花をお目当てに妙見谷は人気が登山コースである。
先の台風によるものか、妙見谷の登山ルートは荒れている。また、高低差はさほどないものの、滝と岩場が多く、沢登りの醍醐味がある。そうした場所には、ロープが残されておりルートも選択しやすいが、足下には十分注意が必要であり、やはり熟練者と同行されたい。
滝のしぶきが常にあたるところや清水の滴る岩場に、しっかりと根を張っているのがイワタバコで、その葉の特徴から開花期でなくてもよくわかる一株に大きな葉が2〜3枚しかつかない植物で、葉たばこ(ナス科タバコ属の熱帯地方原産の植物)の葉によく似るが、イワタバコはイワタバコ科で親戚でもなんでもない。したがって、タバコの代用にはならないが、イワタバコの若葉は食用にできると知人から聞いた。花は薄紫色で、星形の5つの花弁が反り返っているのが特徴である。ちなみに、丸滝谷やモミジ谷にも見かけた記憶があるので、次の開花期には確認してみたい。
ゲートから2時間弱歩いたところで、崩落地が視界に入ってきた。これまで遡上してきたルート上の真正面に見えるものだから、そのまま崩落地に向かって直進したくなる。しかし、急斜面に加え地肌や大小の岩が露わになっており、かなり不安定な状態である。本来のルートは、右手から流れ出している小さな沢で、そこを登っていくとこれまで通り山頂付近の広場に出る。
この崩落地は、千早本道の最後のY路地を右手に(自衛隊道)とっていくと、上から覗くことができる。私たち人間の営みに隣接しているところでは「自然災害」の爪痕ということだが、金剛山の地形的には、活断層による隆起と風雨による浸食を繰り返しているその途上の一瞬に過ぎない。 |