Mountain Guide
                         くりんとの登山ガイド

           
   
  岩屋文殊に通じる山野草の宝庫/寺谷・細尾谷・ババ谷
   
ニリンソウ(5月)   ヤマブキソウ(5月)   クリンソウ(5月)
   
ラショウモンカズラ(5月)   イナモリソウ(6月)   ササユリ(6月)
   
ギンリョウソウ(6月)   ヤブカンゾウ(7月)   キヨズミギボウシ(7月)
   
ヤマジサイ(7月)   アカショウマ(9月)   イワヒヨドリ(9月)
   
ヨシノアザミ(9月)   ヤマホトトギス(9月)   アケボノソウ(9月)

 金剛山ロープウェイ千早駅付近からは、久留野峠や伏見峠を越えて奈良県側に下りることができる。この2つのルートの交差点が百ヶ辻ということになるのだろうか、なかでも、百ヶ辻から伏見峠に至るルートは念仏坂と呼ばれ、ちはや園地や山頂付近までの車道と兼ねているため大部分がコンクリート舗装されている。しかも、人工林に包まれた道で全く味気ないが、トチノキの大木を過ぎて岩場から滴る水場に至るあたりで、左手に伸びた登山道に消えて行く人をちょくちょく目にする。この登山口から数分登ったところに分岐路があり、左をとれば文殊東尾根ルート、右に行けば寺谷ルートで、いずれも岩屋文殊付近に通じている。ただ、前者は急登で、尾根沿いに人工林や自然林が交錯し、ヤマツツジやヤマザクラの花も楽しめるものの面白みに欠ける。そこでお薦めは寺谷である。

【寺谷】
 寺谷ルートは、その名の通り谷沿いに伸びており、こうした水場に近い環境は尾根道に比べて植生が豊かである。実際、ゴールデンウィークの頃に歩くと、ヤマブキソウやニリンソウ、クリンソウ、ショウジョウバカマ、ヒトリシズカなどの花が微笑んでくれる。ヤマブキソウやニリンソウは、カトラ谷ほどの賑わいではないが、クリンソウが木道階段に沿って行儀よく並んでいる。人の手が加わった感が否めないが、誰の目にもつきカメラに収めやすい。9月頃に歩くと、今度は、ヒヨドリバナ、ミカエリソウ、ヤマホトトギス、イヌショウマなど秋の花が彩りを添える。
 先の水場から岩屋文殊付近まで約1時間。さて、その岩屋文殊だが、巨岩が露出しており、その袂にコンクリート製の祠がある。そこに文殊菩薩を祀っていると思われるが、文殊菩薩は智慧の守であり、転法輪寺で求められた矢が合格祈願としてたくさん奉納されている。役行者や楠木正成に関わった伝説も残っているが、もとはこの地の巨岩信仰から始まったのかもしれない。

【細尾谷】
 さて、先の念仏坂を、寺谷ルートのとりつき付近からさらに5分ほど登ると、やはり左手に細尾谷を登る登山口がある。このルートは、他に「木馬道」や「シルバー」という名も付いているが、前者は、かつて木馬(きんば、きんま)を用いて木材を切り出したルートということだろうか。木馬は大型の木製ソリで、滑りがよいように丸太の枕木を等間隔に並べ、その上を人がロープを肩にかけて引っ張るものである。戦後しばらく紀伊山地でも見られたようだが、その後、トラック輸送などにとって代わられた。実際、細尾谷の上流には、花崗岩を掘削して造ったと思われる幅2mぐらいの滑り台状の河床が見られ、木馬道の所以に納得できる。また、木馬を引っ張った道ゆえ、傾斜もなだらかなルートで、ご高齢の方にも登りやすいというのが、「シルバー」というネーミングの所以だろうか。
 こちらも、5月頃にはヤマブキソウやクリンソウが見られ、7月になると、ヤマアジサイやアカショウマ、ヤブカンゾウなどが河岸の彩りを添える。また、金剛山の各谷沿いは、ミソサザイが多く高らかなさえずりで歓迎してくれる。この細尾谷ルートは、金剛山遊歩道に通じており、合流点を左へ行けば岩屋文殊、右に折れればロープウェイ金剛山駅に至る。

【ババ谷〜文殊中尾根】】
 花を愛でるなら、谷筋の登山道にこそ賑わいがある。一方、尾根筋の登山道は、標高が高ければシャクナゲなどツツジ科の樹木が楽しませてくれるものの、金剛山地の場合、人工林が多い。ここ文殊尾根も、薄暗い人工林の中を通っておりあまり楽しくはない。そんな中、文殊中尾根に合流するババ谷のルートがあり、6月中旬、スギやヒノキの林床でイナモリソウ(アカネ科)の開花が見られる。江戸時代に、尾張の花屋九兵衛が菰野(三重県)の稲盛山で発見しこの名を付けたそうで、希少種ではないが、金剛山ではここで出会える。

 
岩屋文殊   文殊尾根
 
文殊尾根のスギの巨木   ババ谷
 
細尾谷の木馬道の痕跡   寺谷
 
 
   

 
   

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