金剛山・葛城山は、カエデ科の仲間ウリハダカエデの多いところである。とりわけ、金剛山では大日岳周辺、葛城山では葛城高原ロッジのあたりに大木が見られる。さらに、水越川の源流部には、モミジ谷と名前のつく谷があり、どんなカエデが出迎えてくれるのか、また紅葉の美しさいかほどなのか興味は尽きない。
このモミジ谷ルートは、まず水越峠からダイヤモンドトレールを歩く。途中、江戸時代の水越川水論争で有名な越口を通過する。水越川の水路を人工的に変え、奈良県側の関屋方面へ水を落としているところで、この水は、現在でも御所市吐田郷(関屋・増・名柄・豊田・宮戸・森脇・多田・寺田の8ヶ村)を潤し、その実りは吐田米としてブランド化している。ダイヤモンドトレールは、カヤンボ
谷手前にかかる橋を渡って丸太階段の登りにとりつくが、モミジ谷に入る分岐は、もう数十メートル先にある。
以前、この入口に「吐田郷生産森林組合伐採中」の札が掲げられているのを見たことがある。吐田郷の米作りはこの川の水の恩恵にあやかっており、水越川の源流域の森林も維持管理しているようだ。国産材がなかなか採算に合わない現在では、森林資源の活用というより、治水のための手入れに重きをおいているのだろう。
【狼谷】
河川の保全という意味では、砂防ダムの多い谷である。3つ目の砂防ダムをやり過ごすと、狼谷が右手から合流してくる。狼と名のついた渓谷にはおのずと興味が注がれる。日露戦争さなかの1905年(明治38年)、東吉野村で捕獲されたニホンオオカミが捕獲されたものとしては最後のものとなり、絶滅してから100年あまりの歳月を経た。この山にニホンオオカミの遠吠えを聞くことができたのは、いつの頃までだろうか。それでもこの名が残っているのはうれしいものである。
狼谷ルートは、行き交う登山客は少ないものの、大日岳周辺まではほとんど迷わない。ただ最後に、大日岳山頂そのものに通じるルートや大日岳山頂の北側あるいは南側に出るルートなどに分かれており迷いやすい。このルートの特徴として、木馬を通すために平らに掘削したかと思うようなナメトコが1箇所ある。実際のところは分からないが、変化の少ない谷の中で唯一楽しみな風景である。
【もみじ谷本流ルート】
5つめの砂防ダムを乗り越えると川は二股に分かれ、左が「もみじ谷ルート」、右が「もみじ谷“本流”ルート」と呼ばれている。この分岐路で一息つき、両方の谷を目の前にすると、右手の「もみじ谷本流ルート」の方が形の整ったV字谷を形成しており水量もあるので、おのずとそちらに足が向く。紅葉の頃には、このV字谷の河岸が何種類ものカエデの落ち葉で埋め尽くされる。私が確認したものは、ウリハダカエデ、ウリカエデ、イタヤカエデ、イロハモミジ、オオモミジ、コハウチワカエデ、ヒナウチワカエデの8種類であった。さらに先を進んでいくと、6つめの砂防ダムと共に滝があり、厳冬期には氷瀑が見られることで知られている。砂防ダム手前左手に滝を巻くルートがある。この砂防ダムから先には、さらに4
本のルートに分かれ、仁王杉、餌場、転法輪寺裏手とそれぞれに出ることができるので、下地図を参考にされたい。
最も西寄りのルートをとった場合、GW頃には、見事なニリンソウのお花畑が迎えてくれる。
【もみじ谷ルート】
次に、5つめの砂防ダムに戻って左の支流を選んだ場合の「もみじ谷ルート」だが、谷沿いに直進するルートと谷左手の尾根に出るルートがある。後者の方が登山道もはっきりしており、5つめの砂防ダム分岐からすぐの左手斜面に、尾根にとりつくための急な登り坂が現れる。ここを登りきると、秋には黄色く紅葉したブナやナラ林が迎えてくれる。また、谷を覘けば鳥瞰的に、色とりどりのカエデの紅葉を見渡すことができ、やがて仁王杉付近に出る。
【カヤンボ谷ルート】
ガンドガコバ林道沿いに流れる水越川は、ダイトレとの分岐をこえると、もみじ谷とカヤンボ谷に分かれる。もみじ谷は人気があり登山客も多いが、カヤンボ谷も同様の沢登りを楽しむことができる。唯一の難所と言えば、砂防ダムを壁をまくための4連梯子。公的機関が登山道として整備したルートではないため、このアルミ製の梯子も、1つ1つ安全を確認した上で、自己責任で利用するべきだろう。特に、最後の梯子を登り切り堰堤の壇上に移るところが危険である。後半は、ダイトレにエスケープするルートとサネ尾に合流するルートに分かれる。
サネ尾の西はもみじ谷、東はカヤンボ谷で、等高線を見るとよく分かるが、結構やせた尾根道が所々にあり、下りはスリルがある。 |