Mountain Guide くりんとの登山ガイド
上の丸滝
金剛山には、16方位まんべんなく蜘蛛の巣状に登山ルートがあり、順に踏破していく楽しみがある。大きくは谷筋と尾根筋に分かれるが、圧倒的に谷筋のルートが面白い。谷 筋というのは登るにつれて滝や急流などの変化があり、知らず知らずの間に高度を稼いでいる。また、水場には山野草が多く、四季折々の花に出会う楽しみもある。一方、尾根筋は人工林が多く、 高木に育ったスギやヒノキの森は眺望を遮っていて変化に乏しい。ただ、石ブテ尾根や中尾ノ背、千早本道などは、比較的落葉広葉樹が多く残っており、そうしたルートを選んでみると 楽しむことができる。 【丸滝谷】 谷筋ルートでいうと、カエデ類をはじめ落葉広葉樹の多い「モミジ谷」が大好きであるが、「丸滝谷」は、滝の多いルートとして私のお気に入りである。タイトルに「金剛四十八滝」と付けてみたが、無論四十八の滝を数えることができたわけではなく、滝の多様さを表現したく命名してみた。 地図上で名前のついている滝は、渓谷最上流部にある上・下の「丸滝」だけである。金剛山全体が花崗岩の巨大な塊であるように、この谷も花崗岩を浸食しながら大小の滝を作っており、とりわけ「丸滝」は花崗岩の大きな壁となっている。下の丸滝は、 滝全体が赤く見える赤壁の様相だが、特別な岩石ではなく、花崗岩に赤みがかった藻類が付着していると思われる。一方、上の丸滝は、この谷の最後に立ちはだかる岩壁で、水量はさほどないものの高さがあり、滝の右手から慎重に登っていく必要がある。 さて、このルートで私イチ押しの滝がある。中尾の背との分岐から数えて3番目の滝になるだろうか、大小の段差が流路に雛壇状に続いている。赤目四十八滝の雛壇滝ほど川幅は広くないが、最初は落差のある数段の滝か始まり、やがて十数段の雛壇が連続して続く。名前は付いていないと思うが、ここでは、「丸滝谷の雛壇滝」としておこう。1回のシャッターで、この滝の全てを収めきれないのは残念である。 この谷おもしろさは滝もさることながら、「ナメトコ谷」が何カ所もある。花崗岩の川底ゆえ、磨かれたような滑らかさはなく、ザラザラしているから靴底が滑ることはない。丸滝から上流にナメトコが 多いのだが、川幅も1m未満でナメトコの登山道と化している。緑の中に花崗岩色の地肌が直線に走る様が面白い。 この谷には、岩礁にイワタバコが多く、花期は7月下旬以降となる。
【石ブテ尾根・中尾ノ背】 丸滝谷は、石ブテ尾根と中尾ノ背(尾根)に挟まれた谷である。植生地図を見ると、2つの尾根とも落葉広葉樹林が比較的広い範囲で広がっている。 山頂から石ブテ尾根を下ると、尾根筋を走る登山道を境に左手が人工林、右手が落葉広葉樹林となっている。紅葉の季節は、足下に積もった落葉を踏みしめて歩くのがなんとも心地よい。ただ、石ブテ谷に降りる登山道は急降下で、毎度、登山靴の中で小さな戦いが生じる。 中尾ノ背を下る場合、今度は右手が人工林、左手が落葉広葉樹林となっている。したがって、丸滝谷は落葉広葉樹林のロートによって集められた雨が注ぐ谷と 説明できる。こちらも、丸滝谷に合流する登山道は急勾配で、設置されたロープによって救われる。 【六道ノ辻】 六道とは、地獄・餓鬼・畜生・修羅・人間・天上の世界のことで、仏教の六道輪廻の思想に基づいている。よく六地蔵というのにも出くわすが、これら六道を六種の地蔵がそれぞれ救ってくれるという信仰から生まれたものである。 ここ六道ノ辻には、今や六地蔵もなにもなく、太尾と石ブテ尾根への分岐路に過ぎないが、信仰上は六道へ通じる道の分かれ道、あの世とこの世をへだてる境界というところだろうか。 【大日岳】 最澄(天台宗)や空海(真言宗)が唐から持ちかえった密教は、やがて日本古来の山岳信仰と結びつき、「修験道」という独自の宗教も 発展させた。修験者の行場は、山深く険しい霊山であるが、密教において最も重要な存在である大日如来は、しばしばそうした山頂に安置されてきた。ちなみに、不動明王は大日如来の化身、あるいはその内証(内心の決意)を表現したものとされている。全国に、大日岳・大日ヶ岳・大日山と称する峰が多数存在するのは、そうした大日信仰のあらわれと考えられる。 奈良県内では、大峰山系深仙に大日岳、稲村ヶ岳の隣に大日山、そしてここ金剛山に大日岳(1094m)がある。六道の辻から転法輪寺宿坊に通じる登山道上にそのピークはあるが、三角点はなく、ススキヶ原となって開けたところに登山客の設置した「大日岳(1094m)」の看板 があり、その所在地を確認できる。
【所要時間】 ○ 石筆橋・・・中尾ノ背分岐・・・丸滝・・・六道の辻・・・転法輪寺 (上り・約2時間40分) ○ 転法輪寺・・・六道の辻・・・中尾ノ背ルート・・・石筆橋 (下り・約1時間30分) ○ 転法輪寺・・・六道の辻・・・石ブテ尾根・・・登山口トイレ付近 (下り・約2時間)
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