Mountain Guide
                         くりんとの登山ガイド

           
   
 役行者と葛城山 (櫛羅の滝コース)

山頂付近のススキ

【葛城山の植生】
 標高約350m 付近にある葛城山ロープウェイ登山口駅が出発点。ここまでは、近鉄御所駅からバスが出ているし、マイカーで来ても有料駐車場がある。ロープウェイで上ると10分足らずだが、ここは植物観察を兼ねて自分の足で登るとしよう。櫛羅の滝コースはロープウェイの索道に沿って開かれた登山道で、登山口駅の右手に歩道が延びている。一方、北尾根登山道ももここが起点だが、不動寺の手前から裏手にかけて登山道が延びている。
 櫛羅とはこの辺の地名で哺乳類の名称ではない。江戸時代後半には櫛羅藩も存在した。さて、登山口駅から櫛羅の滝を経て二の滝まで45分前後。その間、リョウブやダンコウバイなどがよく目につく。 春はタチツボスミレやヤマルリソウ、ヤマブキやモミジイチゴの花に出会え、秋に上ると、フユイチゴ、ノササゲ、アカネ、マタタビ、ムラサキシキブといった色とりどりの果実に出会えて楽しい。
 リョウブの樹皮は剥げ落ちやすく、独特な色調で識別しやすいが、一見ナツツバキにも似ている。植物学者牧野富太郎の「植物随筆」によると、材は茶人が好む木炭になり、若葉は春に摘んで茹で、ご飯とまでて食用とする(リョウブ飯) とある。 古名を「ハタツモリ」と言い、飢饉の時のために畑に植えさせたので「畑之守」からきたという説もあるが(大言海)、富太郎が六甲山へ行った折、白旗が積もっている様 に出くわし、それをこの名の由来と確信したという。
 この時期、イノシシがよく出てくるのか登山道にも「土耕跡」や「足跡」を見つけることができる。土耕跡は、その牙や鼻で土を掘り返し、ミミズなどを探すためにできるものだが、あまりの掘り返しように驚いてしまう。一方、登山道のコンクリートの石段の上に糞を見つける場合もある。こうした目に付きやすいところにポツンと置かれている糞は 、たいがいイタチ科の動物の仕業である。
 二の滝を過ぎてしばらくすると、スギやヒノキの人工林の中に入る。近年の国内林業不振もあってか、手入れの行き届いていないところも多い。森林は間伐を行わなければ、ひょろひょろと細長く、風雪で折れやすい弱い木に育つ。 林床には日光が届かず下草 が生えないため、地表が雨で流されやすくなり、ぜい弱で土砂災害なども誘発する。
 標高750mを過ぎたあたりからミズナラやカエデ類、イヌシデが多く見られるようになる。 コナラには長い葉柄があるのに対して、ミズナラには葉柄がほとんどないのが見分けるポイントである。さらに婿洗いの池(標高850m)を過ぎると、ミズナラに混じってブナやイヌブナが 現れてくる。イヌブナの葉(9〜14対)は、ブナの(7〜11対)に比べて側脈の数が多く、葉裏に白い毛が見られる。
 やがて、山上駅から葛城高原ロッジに続く舗装道に出る。ここまで約2時間。ロープウェイで上ってきた軽装の観光客が多く行きかう。葛城山頂(標高959.7m )までは、あと10分ほどである。
  

 
イヌブナ   イヌブナの堅果
 
葛城山ロープウェイ   奈良盆地を見下ろす

【役の行者】
 かつて、金剛山から葛城山、さらに岩橋山までをひっくるめて「葛城山」と称した。そして、その 葛城山を修行の場とし、修験道の祖と伝えられるのが「役の小角(えんのおづぬ)」である。彼は634年、大和国葛木上郡茅原の里(現奈良県御所市茅原)の吉祥草寺で生まれた。実在の人物であることは確かだが、史書に残るところは極めて少なく、その生涯の殆どは伝説の中で伝えられている。17才で元興寺に学び、やがて 「葛城山」で山岳修行に入り、さらに、熊野や大峰の山々で修行を重ねたともいう。
 699年、小角66歳の時、伊豆の大島へ流されるが、その理由はこうである。彼は葛城神社の祭神一言主命に、岩橋山から吉野の金峰山に石橋を架けよと命じたが 、なかなか工事がはかどらない。一言主命は顔が余りにも醜く、暗い夜にしか働かないから遅延しているとわかり、小角は怒って一言主を呪縛し深谷におしこめた。こうした経緯を、弟子の韓国連広足(からくにのむらじひろたり)が「役行者は世の人々を惑わし、謀反を企てている」と朝廷に告げた。母親を人質に取られた小角は、自から出て来てお縄となり、伊豆大島へ流されたという。
 役行者が法起菩薩を感得して創建したとされる転法輪寺は、金剛山頂の上である。また、自分の祖神である一言主を奉祀した葛木神社も金剛山頂で、葛城修験道の根本道場は金剛山にお株をとられている。その代わりと言っては何だが、「葛城」の名前はこちら葛城山が受け継いでいる。

   
 
櫛羅の滝   行者の滝(二の滝)
 
 
   

 
   

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