【千早本道】
大阪府側からの金剛登山には、いくつものルートがあるが、千早の金剛山登山口バス停から伸びる「千早本道」はその代表であろう。登山口には駐車場やトイレが完備され、登山道そのものも整備が行き届いていて、積雪期でも迷うことはない。途中5合目にもトイレがある。車を置いてから葛木岳山頂まで最短時間で登ることのできるルート
の1つである。
山頂付近には、登山回数と名前をのせた掲示板があるが、金剛錬成会に入会すると一定の登山回数で名札が掲げられるそうだ。10000回以上という仙人クラスの方は別格として、500回・1000回とそうした回数を励みに精神と身体を鍛錬する登山客も多い。
ここ千早本道は、そうした方々の錬成コースでもあり、他のコースに比べて高齢の方が多く見うけられる。ちなみに、回数券は売店で400円で購入でき、最初の1枚で5回の赤バッチ、10回の銀バッチが無料でもらえる。その後は50回目のバッチとなるが、1枚400円の回数表(10回分のスタンプカード)を買い足していかなければならない。1日1回6:00〜19:00まで印を付いてくれるが、その人件費らしい。
千早本道は、悪くいえばひたすら単調な上りだが、悪路は少なく道幅も広いため歩くリズムは作りやすい。登山マップでは1時間40分とあるが、
健脚な方なら1時間少々だろう。私は、あっちの花こっちの花が気になってなかなか高度を稼げないが、それでも1時間30分ほどで登り着く。
このルートの一番の楽しみは、八合目からのブナ林。登山道沿いにも巨木が並ぶ。大阪府の金剛山に対する肝の入れようは、紀伊山地を擁する奈良県とずいぶんスタンスが異なるように感じ
られる。大阪府最高地点を含む唯一の1000m級の山でもあり、府というより府民が愛着を持っているのかもしれない。
また、奈良県側は人工林が多いのに対して、大阪府側にブナの原生林がよく残っている。
【葛木岳周辺】
葛木神社周辺にはブナ林がよく残っている。神域として伐採を免れてきたのかもしれない。葛木神社から“ちはや園地”に向かって続く登山道の右手にもブナ林。さらに神社の裏手には登山道が周回しており、そこにもブナ林がある。ブナは森林の多様性の象徴だから、おのずと周辺には動植物の種類も多い。ヤマガラ、シジュウカラ、キビタキが見え隠れし、遠くでツツドリの鳴き声が響く。カケスも道案内をかってでる。黄色く紅葉するブナは、秋の楽しみである。ブナの樹皮をよく見ると、一本一本文様が異なる。この文様は実は地衣類であり、樹皮を利用して生息しているのだ。寄生しているわけではないから、ブナ本体に悪影響はない。樹幹を流れる雨水をいただくのと、光合成を行う菌と共生しているため、日当たりの良さという恩恵を頂戴している。
葛木神社裏手の林床はササに覆われているが、その林縁では4月下旬、カタクリがピンク色の顔を覗かせる。お隣の葛城山の大群生地に比べれば、本数は大したことないが、ここでもちゃんと自生しているのがうれしい。あと、金剛山遊歩道でも咲いている。
【十三佛信仰】
千早本道を歩いていると、何体もの石仏に出会う。いずれも同じ年代に造られたと見えるが少しずつ表情が異なる。これらは、「千早」交差点の地蔵堂を起点に町石を兼ねた十三佛で、幾つかの石仏から「明暦二年四月吉日」の銘を読み取ることができる。西暦は1656年、将軍徳川家綱の頃である。「十三佛信仰」は、閻魔王で知られるように死者を裁き冥界への審理に関わる13の仏だが、十三回の追善供養(初七日〜三十三回忌)をそれぞれ司る仏様としても親しまれている。配置は以下の通りであるが、12番目の大日如来だけが不明である。 |