Mountain Guide
                         くりんとの登山ガイド

           
   
 関西のマッターホルン高見山
高見山トンネル付近から見た高見山は尾根が東西に伸びている

 ネット上で「霧氷・奈良」をキーワードに検索してみると、「三峰山」がダントツ1位、次に「高見山」を紹介する記事が多くヒットする。毎年1〜2月になると、奈良交通の「霧氷バス」が三峰山・高見山・観音峯・和佐又山方面に向けて運行されるが、なかでも御杖村観光協会主催の「三峰山霧氷まつり」が盛大に行われており、人気の一因になっているのかもしれない。
 霧氷なら、金剛山でいつでも見られると、三峰山や高見山の霧氷をあまり意に介してこなかったが、2019年、積雪期の高見山を登って驚いた。金剛山(標高1125m)と高見山(標高1248m)の標高差は123m、単純計算で気温は0.6℃しか変わらないことになる。なのに同時期の積雪量は、高見山の方が圧倒的に多く、4本爪のアイゼンで登ろうとした私は、随分なめてかかった態度であったと反省した。そして、奈良の山にもアイスモンスターが存在するのではと期待させる程に、「海老の尻尾」の発達した樹木が尾根筋の登山道に待ち構えていた。

【たかすみ温泉から平野ルート】
 登山口の1つである「たかすみ温泉」は、駐車場の一角を登山者向けに開放しており、下山後の温泉という楽しみもある。高見山山頂には高角神社があり、かつて高角山とも呼ばれていたようで、温泉の命名もこうした古名に由来するのだろうか。ここからの平野ルートには、「高見杉」と名の付いたスギの巨木が出迎えてくれる。避難小屋が隣接しており、小休止にちょうどよい。杉谷コースからの合流地点を過ぎると尾根筋の上りで、「国見岩」「息子岩」「揺岩」などの巨岩が現れ、それぞれ看板に説明されている歴史がおもしろい。その日の気温によるのだろうが、いよいよ霧氷のお出ましである。
 樹氷も霧氷とほぼ同義語であると考えてよいが、空気中の水分が葉や枝に凍結付着したものである。気温-5℃以下で顕著に見られ、風下に発達した結晶の造形物を、その様から「海老の尻尾」と呼ばれている。とりわけ、蔵王の樹氷林が観光資源として有名だが、さらに樹木が樹氷で完全に覆われたものは「アイスモンスター」と呼ばれている。
 高見山山頂はあまりスペースがなく、樹氷シーズンはごったがえす。山頂の高角神社は八咫烏を祀っているが、神武天皇東征の際、道案内を勤めたとされる烏である。

 高見山の山容を地形図の等高線からイメージしてみると、南北方向から見た時はなだらかな稜線の山に見えるが、東西方向からは尖って見える。このことが「関西のマッターホルン」と言われるようになった理由である。五條市、大淀町、吉野町を地図上で直線で結ぶと、延長線上に高見山があり、その直線に沿って吉野川が流れているため、そうした町からもマッターホルンのシルエットがよく見える。紀州の文人祇園南海(ぎおんなんかい)は、自身の漢詩帖『五條十八景』(1704年)で高見山(第二景「高峰秋月」)を詠んでおり、その姿の尊さを「小富士」と例えている。
 このような高見山の山容は、季節風に対して山頂付近の尾根筋が風衝地となるため、とりわけ北斜面の樹木がまばらとなって山肌が露出している。したがって、霧氷による造形物1つ1つが彫刻作品のようで森の妖精のようにも見える。これらの造形物を被写体としてカメラを向ける時、青空という抜群の演出が望ましい。ただ、こればかりは時の運か、足繁く通い粘り強く待つという忍耐も必要となる。

 さて、最初に投げかけた「同じ奈良県内の金剛山と比べて、標高もあまり変わらない三峰山や高見山の峰々は、なぜ見事な霧氷が発達するのか」という疑問はまだ解けていないが、以下のように推察してみた。
○ 金剛山地の場合、標高1000mを越えているのは葛木岳を主峰とする金剛山周辺だけで、しかも等高線が複雑に入り組んでいて、たくさんの尾根や植林によって冬の厳しい季節風から主峰群は守られている。もちろん霧氷は見られるが、風衝地は少ないため海老の尻尾もさほど発達しない。
○ 一方、三峰山から高見山にかけての台高山脈の峰々は東西に延びており、北斜面も南斜面も「関西のマッターホルン」と称されるような急傾斜の壁となっている。そのため、頂上付近の尾根筋は風衝地となっており、樹木も背が低く粗である。巨大な海老の尻尾を形成し、みごとな霧氷が発達するのは、厳しい冬の季節風にさらされる風衝地ということではないだろうか。

 
たかすみ温泉駐車場   高見杉付近
 
山頂付近に発達した海老の尻尾   樹氷
 
八咫烏を祀る高角神社   五條から見える高見山はまさにマッターホルン

【旧伊勢街道・杉谷ルート】
 高見山を登るには、東吉野村杉谷に「高見山登山口」というバス停があり、かつてはこちらを利用する登山客が多かったのではと推察する。というのも、このルートは、お伊勢参りや参勤交代にも使われた旧伊勢街道でもあり、所々石畳で整備されていて古道の趣がある。この街道は高見峠に続いていくのだが、登山客は、小峠から平野ルートに合流し、高見山山頂をめざす。小峠には、大正11年建立の石地蔵と昭和13年建立の「南無妙法蓮華経・奉歓請立千王姫」と刻まれた石碑が立つ。
 実は、小峠の先の高見峠も高見山登山口の1つで、山頂まで1時間弱の最短コースである。ここまで自動車道が通じている利便性もあって、利用者も多い。さらに、南に目をやれば、国見山や明神平へと続く台高山脈縦走の要であり、トイレも整備されている。ここに通じる自動車道は、1953年(昭和28)に完成した旧国道166号線で、現在は、1984年(昭和59)に開通した高見トンネル(総延長2470m)が飯高方面に通じる国道166号線として利用されている。

 
東吉野村の山の神はお供え物がバラエティーである   旧伊勢街道の石畳
 
小峠   高見峠の登山口

【所要時間】
 <往路>
  ○たかすみの里・・・高見杉・・・山頂 (約3時間)
  ○高見登山口(杉尾)・・・小峠・・・杉谷・平野分岐・・・山頂 (約2時間 )
 <復路>
  ○山頂・・・高見杉・・・たかすみの里 (約2時間)
  
○山頂・・・高見峠 (約30分)
  ○高見峠・・・小峠・・・高見登山口(杉尾) (約1時間30分)

 
 
 
   

 
   

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