Mountain Guide
                         くりんとの登山ガイド

           
   
 竜口尾根から紀伊山地のグランドキャニオンを望む

竜口尾根展望地より大蛇ーを望む

 東大台の大蛇ーは、隆起準平原の縁(へり)であり、年間平均降水量4800mmもの雨によって谷頭浸食が進み、800m眼下に東ノ川が蛇行している。その東ノ川を挟んで前方には、大蛇ーと袂を分けた兄弟の隆起準平原が広がり、ほぼ真東に西大台の逆峠のピークを望むことができる。さらに目線を東ノ川の下流方向(左)に移していくと、今度は、鋸歯状の尖った尾根が竜の尾のように続いていくが、この尾根が「竜口(りゅうご)尾根」である。

 この竜口尾根の南端には、標高1377.4mの又剣山というピークがそびえ、林道サンギリ線を使えば、上北山村河合から車で30分足らずで又剣山登山口に到着できる。しかも、登山口から又剣山まではわずか40分の登りである。
 このあたりからの眺望は、まず、西の大峰山系のパノラマに感動する。山容が特徴的である行者還岳や釈迦ヶ岳を見つけることができれば、あとは、弥山や八経ヶ岳、仏生岳や孔雀岳などが連なり、いつまでも飽きない遠景である。一方、東には蒸籠ー・大蛇ーからコブシ嶺に続く台高山系が連なり、こちらは距離の近さから一層の大迫力である。そして、又剣山から竜口尾根を北へ進んでいくと、大蛇ーがますます大きく迫ってくるのである。
 竜口尾根は、鎌の刃のようにやせている。しかし、よく研がれていないせいか、刃こぼれが多く、大小のアップダウンを繰り返しながら進んでいく。次に立ちはだかるピークはよく見えるものの、そこをクリアすればまた次のピークが現れる。標高点1320m付近は、これまでにないおだやか山上であり、そこから東へ少し下ると良好な展望地がある。地形図上ではほぼ真東に堂倉山があり、大蛇ーはやや南の側面から望む感じだろうか。肉眼では、登山客の姿をとらえることはできないが、双眼鏡があればより確かに大蛇ーの先端を同定することができる。

 ここから、いよいよ竜口尾根の北端を下っていくのだが、掌を広げたような先端になっているため、地形図を読みながら目指す方向をしっかり見極めないと迷ってしまう。
 北へまっすぐ尾根上を降りていけば、逆峠から延びる尾根との鞍部に至ることができ、ここで西大台からの登山道に交わることができる。逆峠までは、尾根に沿ってさらに15分ほど登っていくことになるが、そこから先は西大台利用調整地区となり、入山には事前申請やレクチャーの受講が必要となる。標高1411mの逆峠のピークに三角点はないが、松浦武四郎発願の石標「逆川峠」を見つけることができる。その当時のルートは、尾根伝いを基本としていたことがこの石標でもよくわかる。「逆峠(さかさとうげ)」の名の由来はなんだろうとずっと疑問に思ってきたが、この石標から、ここ源とする逆川にちなんで、かつては「逆川峠」と呼ばれていたのだとまず納得。そして、後に「川」が省略されて「逆峠」になったようだが、ならば「逆川」の由来はなんだろう。調べてみると、全国に「逆川」という名称の河川は多数あり、潮位の上昇や合流先河川の増水などによって、水が逆流することがある河川や地形などの影響で周辺の川とは逆の方向に流れている河川に命名されているようだ。ここ西大台の場合、後者の方だろう。
 話を竜口尾根の北端に戻そう。小処温泉をめざすには、前述の方法で早々に登山道に合流するのもいいが、竜口尾根の北端から別の尾根が真西方向に直角に延びており、その尾根上をたどる登山道がテープなどで誘導されている。この道は、三角点1317.1m笙ノ峰まで続いており、このピークを過ぎると西大台からの登山道と合流することになる。いずれにしても、自分の所在地を地形図上でよく確認されたい。2016年5月に発生したツアーガイドの遭難は、竜口尾根を踏破し小処登山道に出てから道に迷った際の事故とうかがっている。

 大蛇ー付近は隆起準平原の西端にあたり、地質学的な時間のスケールでみると、ここはまさに大台ヶ原準平原が崩れ落ちていく最前線、紀伊山地版グランドキャニオンが形成されている。西大台逆峠の北にある展望地からも大蛇ーを望むことはできるが、竜口尾根の標高点1320m付近にある展望良好地から望む大蛇ーや蒸籠ーにこそ、グランドキャニオンという表現が決して大げさでないことに納得して頂けるのではないだろうか。

【所要時間】 ※休憩時間を除く
 <往路>
  又剣山登山口・・・(約35分)・・・又剣山・・・(約1時間40分)・・ ・展望地
  ・・・(約1時間30分)・・・逆峠
 <復路>
  逆峠・・・(約45分)・・・笙ノ峰・・・(約1時間20分)・・・小処温泉 

竜の背のように伸びる竜口尾根(又剣山付近より)

大蛇ーより竜口尾根〜逆峠を望む

大蛇ーより竜口尾根(又剣山)を望む
 
又剣山登山口   又剣山山頂(山頂から大蛇ーが見える)
 
丸塚山   五兵衛西ノ肩
 
逆峠(松浦武四郎の石標は「逆川峠」)   笙ノ峰(南に眺望良好)
 
 
   

 
   

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