何年か前、大峰奥駈道を歩いていると、ミヤコザサに覆われた細い登山道端で、レフ板片手にカメラを覗き込んでいる人に出会った。人が凝視しているものには、ついこちらも引き込まれてしまう。ピンク色のかわいい花に、私も横からデジカメを向けさせてもらった。「山ではこういうレフ板が重宝するんですよ」と、アルミホイールを段ボールに貼り付けて2つ折りにした手製のレフ板を使って、私の被写体にも光を当てて下さった。「ショウキラン」という花の名も教わり、その親切と共に忘れてはなるまいと脳裏に刻みこんだ。またある年、大台ヶ原ビジターセンターの前でいると、職員の方から手招きされ、駐車場近くのササ藪に顔を出したショウキラン存在を教えてもらった。薄紅色したこの花の可愛らしさは、つい他人にもお裾分けしたくなるのかもしれない。
ショウキランは7〜8月の開花期のみ、茎を伸ばし花を咲かせる。ギンリョウソウがそうであるように、この花も葉緑素を持たず光合成をしない。葉はいつしか鱗片状に退化してしまった。栄養分は菌根に寄生して得る腐生植物である。太陽光をたくさん浴びる必要のないこうした植物は、林床の薄暗いところで出会うことが多い。カメラでその美しさ持ち帰るには、“レフ板”を持ち歩きたいと知った。
7〜8月
北・本・四・九 |