大台ヶ原のリピーターは花の季節をよく知っている。5月下旬はツクシシャクナゲ、6月に入ればアケボノツツジ、サラサドウダン、そしてシロヤシオが見頃を迎える。いずれもツツジの仲間だ。大台でガイドをする時には、「シロヤシオは別名五葉ツツジともいい、愛子内親王のお印です」と説明すると女性陣の食いつきがよい。すると、「大台に“アカヤシオ”はありますか?」となかなかマニアックな難問をぶつけてくる登山客もいる。アカヤシオは、大台では今のところ確認されておらず、すぐ近くの御在所岳(三重県・滋賀県)以東がアカヤシオ、大台ケ原以西がシロヤシオと自生地を分けている。
どんぐりに成り年・不成り年があるように、花にも成り年・不成り年がある。植物にとって、花を咲かせたり実をつけたりする生育の過程には相当なエネルギーを費やすためか、その準備が整っていないときにはあっさりと繁殖戦略を放棄してしまう。大台ヶ原のように標高が高く生育環境の厳しいところでは、そうした判断がその後の生死を分けかねないため無理はしないのだろう。
2011年6月、東大台に開花したシロヤシオは、6年に一度という当たり年だった(ビジターセンター職員・談)。どの個体もたわわに花を付け、細い枝は重たそうである。とりわけ日出ヶ岳山頂下の展望台から正木ヶ原山頂までの木道が、シロヤシオのトンネルとなっており大台一の見どころである。あと、大蛇ーに続く尾根筋にも、シロヤシオをはじめアケボノツツジ、ツクシシャクナゲなどツツジ科の樹種が多い。シロヤシオの真綿色の花弁には、緑色の蜜標がくっきりついているのが特徴である。ミツバチの仲間は、この蜜標をパイロットランプにして蜜のありかにたどり着く。なかには、花弁全体が淡いピンク色をしたものなど個体差もあり楽しい。
ガイドをしていると、「大台ヶ原にアカヤシオはありますか?」という質問を受けたことがある。それまで、アカヤシオの花を見たことがなかったので、聞きかじりの知識として「大台ヶ原はシロヤシオだけです」と答えた。後に、御在所岳で初めてアカヤシオを観察することができたが、「真っ赤なシロヤシオ」というよりは「アケボノツツジの姉妹」のような花だった。調べてみると、アカヤシオはアケボノツツジの変種という説明にも出会った。今後は、「大台ヶ原にアカヤシオはなく、アケボノツツジがあります」と説明することにしよう。
5〜6月
本(太平洋岸)・四 |