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やまとの花手帖

 
         
         

吉野川にみつけた野のシラン 

ラン科シラン属

吉野川(2005.6.12.)

 ランの仲間は環境の変化に弱い。家で育てて花を咲かせるとなると、とてもデリケートな植物だ。私は、シュンランを鉢植えで育てているが(というより庭に放置している状態)、ここ何年も花芽を出していない。
 ランの種子は、発芽に必要な養分を補給する胚乳や子葉がなく、菌の助けを借りて発芽に必要な養分を得る。この菌は「ラン菌(共生菌)」と呼ばれ、ランの種類によって固有の共生関係の菌がある。それぞれのランが、固有の菌に出会う確率は極めて低く、少しでもチャンスを広げるために、種子はほこりのような微細な(0.5mm〜数mm)形状となって、少しの風に空高く舞い上がる。
 そんな気難しいランだが、「シラン」は育てやすく発芽も確率が高い。乾燥にも過湿にも、日陰にも日向にも、山土にも畑土にも耐え育つ。したがって、庭先に植えられているシランをよく見かけ、決して珍重されるランではなくなった。その育てやすさが幸か不幸か、各地に自生していたシランの交雑種があふれ(日本以外に台湾や中国でも自生している)、地域固有の自生種なのかどうか、その出自はわかりようもない。

 前置きは長くなったが、6月、吉野川(奈良県)をリバーツーリングしている際、石清水のしたたる岩礁にシランの群生地を見つけた。雑草に混じって紫色の花を咲かせるシランは、庭先で束になって主張するシランとはまるで別人のように主張がない。「シランってこんなところに自生しているものなんだ」と、その後は、初夏のリバーツーリングがとても楽しみとなった。ただ、ここのシランがこの地の自生種なのかどうか判別は難しい。流域の民家の庭先に見られる栽培種の種が飛散した可能性も大いにある。しかし、シランといえども、“野”にあってこそ初めて生き生きとしたその素顔に出会えたような気がした。

 4〜6月
 本・四・九・沖