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やまとの花手帖

 
         
         

吉永小百合とササユリ 

ユリ科ユリ属

大塔(2006.7.3.)

 数年前、私の母(和歌山市出身)が、両手に一抱えのユリを持ち込んできた。「父が刈り取ってきたヤマユリだ」と言う。「これってヤマユリ?」とその場は聞き流したが、あとで“ササユリ”と確認する。ところが、地域によっては“ササユリ”を“ヤマユリ”と呼ぶことも珍しくなく、母にとっては間違いなく“ヤマユリ”だった。では、彼女の里では、本当の「ヤマユリ」は何と呼んでいたのだろう。なんともややこしい。
しかし、よく考えてみると、一抱えものササユリを刈り取れるほどの群生地が今も残っていたという事実に驚かねばなるまい。少し前までは身近な里の花だったのだが、今は、少々努力をしなければ出会えなくなった。奈良県上牧町や大阪府泉佐野市、また和歌山県内でもこの花を「町・村の花」と制定しているところが多い。父からの情報を手がかりに、郊外の果樹園に車を走らせる。梅雨の長雨に、一層緑が濃くなったかのような山々。やがて、フロントガラスのワイパー越しに、ササユリの淡いピンクが目に入ってきた。まるで待ち合わせていた恋人に出会ったかのようなときめきを覚えた。あと、数カ所の群生地にも出会えたが、意外に残っているものだ。この度知り得た自生地の共通点として(奈良県南部)、次に列記する。
 ○ 水はけがよさそうな傾斜地や崖
 ○ 日当たりがよ過ぎる南斜面ではなく、午後は、日陰になるようなところ。
 ○ 人の手の届きにくいところ、簡単に行けないところ(高い崖、鬱そうとしたブッシュの中)
 おわかりだろうか。つまり、人の乱獲から免れているところが、その自生地といった具合である。国道168号線を十津川方面に向けて車を走らせていると、開花期には、けっこう国道沿いにも見つけることができる。一緒に車を走らせた仲間には目に入らないらしいが、少し目線を上にあげるのがコツである。というのも、国道沿いの法面は土木事務所が定期的に草刈りを行っている。したがって、刈り払い機の届かない高さにササユリが残っているというわけだ。

 燈火の 光に見ゆる さ百合花 後も逢はむと 思ひそめきて (介内蔵縄麿 巻18-4087)

 さて、この万葉歌の「さ百合花」には、ヤマユリ、オニユリ、コオニユリ、ヒメユリ、ササユリと、いくつかユリの選択肢が考えられるが、私は“ササユリ”と読み解きたい。ヤマユリやオニユリは、その容姿に加え香りも主張が強い。その花の容姿が「燈火」と映り「後も逢はむと」と心惹かれるのは、私の場合迷いなく“ササユリ”である。実は、よく利用する道路沿いに、ササユリを上手に育て、毎年ドライバーの目を楽しませてくれる方がいた。毎年、楽しみにしていたが、ある日、そのお宅の前を通りかかった際、ご夫婦一緒の姿を拝見した。私はドキッとした。奥様は、まるで“ササユリ”のような奥ゆかしい女性とお見受けした。そう言えば、女優の吉永小百合さんの場合も、“ササユリ”がピッタリではないだろうか。

 6〜7月
 本(中部以西)・四・九