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やまとの花手帖

 
         
         

吉野川河岸で生き抜くユキヤナギ 

バラ科シモツケ属

吉野川(2012.4.10.)

 2012年4月、吉野川の「春」を撮りにいこうと車を走らせた。お目当てはユキヤナギ。最近では、公園や庭に植栽されていることも多いが、本来は河岸に自生する植物である。たわわに花をつけ、その重みで頭を垂れている姿をイメージして川に降りたが、この日は、引きちぎられたような株に、わずかな花を咲かせているユキヤナギしか見つけられなかった。そういえば、昨年、台風12号などによる大きな増水が何度もあり、その場所は狂ったような激流にどっぷりと水没していた。一方、この冬の寒さは厳しく、フクジュソウやウメも半月以上遅れての開花で、春の訪れは遅かった。こうしたことが影響しているのか、この日この場所では、思ったような被写体に出会えなかった。
 ユキヤナギが好む河岸は、増水による攪乱を受けやすく、長い年月の浸食によって岩盤がむき出しとなっているところが多い。岩のわずかな隙間にも根を伸ばし、少々の増水では容易に流されないよう低姿勢で育つユキヤナギやカワサツキたちは「渓流植物」とも呼ばれる。とりわけ、ユキヤナギの幹や枝の場合、その名のごとく柳のような柔軟性をもち、激流をうまく受け流すことができる。こうした苛酷な環境を選んだ植物たちにとって、太陽光をめぐっての競争相手は少なく、たっぷりの陽ざしを浴びることができる。
 こうした渓流植物の場合、花をたくさん咲かせる年もあれば、「それどころじゃなかったんだよ」という年もある。吉野川のユキヤナギをよく見れば、枝にはビニールテープや木の根など川のゴミクズが引っかかったままでありり、激流によって幹や枝が掻きむしられた痕跡もあり、この1年間の戦いの傷跡が残っている。それでも春になれば、新芽を出し精一杯の花を付ける。ただ残念ながら、公園に見られるようなたわわに花を付けた容姿端麗な株立ちではない。
 日本列島が未曾有の自然災害に見舞われた2011年の翌年、吉野川河岸に今年も花を付けたユキヤナギに、私は「希望」という春を見つけた。

 3〜5月
 本(関東以西)・四・九