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やまとの花手帖

 
         
         

和泉山脈のユキワリイチゲ

キンポウゲ科イチリンソウ属

和泉葛城山山麓(2024.3.22.)

  ユキワリイチゲという名前に心躍る。漢字で書くと「雪割一華」。まだ雪残る早春に、一本の茎に一輪の花をつける花という意味だろうか。まだ落葉広葉樹が新芽を吹き出す前、林床で陽光を独り占めし、開花・受粉・結実を終える、そして、他の植物が生い茂るころには葉を落とし、地下の球根や地下茎などに栄養分を蓄えて休眠する。いわゆるスプリング・エフェメラル(春の妖精)である。キンポウゲ科のユキワリイチゲの仲間には、フクジュソウやイチリンソウ、ニリンソウなどがある。

 「雪割」と言えば、西條八十作詞、服部良一作曲の「青い山脈」の歌詞に、「青い山脈雪割桜」とある。『西條八十全集 9』(西條八十/国書刊行会/1996)によると、「雪割桜」と言うのは西條の造語で、「雪割草」が正しい名前だと述懐している。ユキワリソウは、ミスミソウやスハマソウの別名で、やはりキンポウゲ科のスプリング・エフェメラルである。では、「青い山脈」の方はというと、西條のイメージは分からないが、服部良一はその著書『ぼくの音楽人生 エピソードで綴る和製ジャズ・ソング史』の中で、梅田から京都に向かう途中、「日本晴のはるか彼方にくっきりと描く六甲山脈の連峰をながめているうちににわかに曲想がわいてきた」とある。意訳すると、「青い山脈雪割桜」は「六甲山系のスプリング・エフェメラル」ということだろうか。

 一方、大阪平野の南縁には和泉山脈、そして、ここにユキワリイチゲの自生地が細々とみられる。私にとって、、「青い山脈雪割桜」は「和泉山脈のユキワリイチゲ」である。岩湧山や和泉葛城山の山頂ではない。こうした春の妖精は、人里の近いところで私たちを待ってくれているのである。

 3月
 本(近畿以西)・四・九