マイホームを新築して庭の植栽にと、ユキヤナギとヤマブキを園芸店で購入した。やがて、ヤマブキの方は八重咲きの花を付けたわわに咲かせるほどに成長したが、
花の色は冴えなかった。その後、旧大塔村へ車を走らせる折に、国道端の落石防止ネットの網目から枝垂れる黄色い花が目についた。図鑑と照らすと「ヤマブキ」であることがわかった。庭に植えたヤマブキとは異なり、こちらの花弁は一重、そして鮮やかな黄色が目に焼き付けられた。この時、本当のヤマブキ色を知る。以後、私の中の「ヤマブキ」は大塔のヤマブキを指す。
万葉集にもヤマブキが歌われている。愛しい人をヤマブキに見立て、すこしでも側にいてほしいと庭に植えたのだろうか。炎のように
火がついたヤマブキの花に、恋の深さを想像してみた。
山吹を やどに植ゑては 見るごとに 思ひは止まず 恋こそ増され (大伴家持 巻19-4186)
八重咲きのヤマブキは実をつけないと言うが、奈良時代にはすでに人々のすぐ近くに存在していたらしい。こちらは叶わぬ恋をヤマブキに例えたようだ。いずれの歌も、大塔のヤマブキを知ってから理解が深まった。
花咲きて 実はならねども 長き日(け)に 思ほゆるかも 山吹の花 (不明 巻10-1860)
4〜5月
北・本・四・九 |