自生するワサビに初めて出会ったのは、旧大塔村でのこと。渓流に注ぐ小さな滝の前を通りかかったとき、岩肌に気になる葉を見かけたため車のブレーキをかけた。近寄ってフキそっくりの葉を見あげたが、白い花が咲いていなかったら、ワサビとは認識できなかっただろう。車道から簡単に手の届くところに、もはやワサビははびこっていない。水しぶきを浴びながら滝の端をよじ登り、ようやくカメラにその姿を収めた。
かつて、村の産業にしようと行政の肝入りでワサビ栽培を始めたこともあったらしいが、大水が出て谷ごと崩壊して失敗に終わったらしい。ただ、わき水の滴る石垣を利用して、ワサビの半自然栽培を行っているお家が、大塔には何軒かある。石垣一面に葉を茂らせたワサビ畑から、時折、必要な分を引き抜いていただく。ご存知の方も多いと思うが、ワサビは花も茎もすべて食することができる。なかでも葉や茎の醤油漬けは手軽に作れて美味しい。そんな山村の生活スタイルが羨ましく憧れでもある。
3〜5月
北・本・四・九 |