Home

 

やまとの花手帖

 
         
         

人里の近くにこそスミレ 

スミレ科スミレ属

大塔(2004.4.28.)

 スミレはたいへん種類が多い。園芸品種も加えると手に負えないので、『日本のスミレ』(いがりまさし著)という図鑑を手にして自生種を調べることにした。日本に自生するスミレが100種以上、私の住まい周辺では、タチツボスミレが圧倒的に多く、そのほかヒナスミレ、ヒメスミレ、シハイスミレなど7〜8種を見つけることができた。ところが、意外に少ないのがスミレ色した「スミレ」というスミレ。文字通りスミレの代表選手だが、ずいぶんと探しまわらなくてはならない。
 自然豊かなところには、さぞかしスミレも多いことだろうと思いしや、鬱蒼とした照葉樹の森や落葉樹広がる雑木林の真ん中ではほとんど見つけられない。ましてや、ブナやミズナラの残る高山には自生しない。地面からわずか十数センチのところで太陽光を獲得するスミレの仲間は、深い森やブッシュの中ではその競争に勝てないのだ。スミレの自生地は、雑木林の林縁や道路の法面、田んぼの畦道などが最適地となる。そして、このような環境は、人の手が入り遷移にストレスをかけている共通点がある。つまり、定期的な草刈りが入る場所だ。スミレにとって天敵となる背の高い草本や樹木を人間が取り除いてくれるのだから、スミレの仲間は人と共に生存してきたといってもいいだろう。自然を残しつつも人の生活の営みが見られる場所、つまり、自然と人間が仲良く暮らしているところがスミレの楽園なのだ。
 

 春の野に すみれ摘みにと 来し我そ 野をなつかしみ 一夜寝にける (山部赤人 巻8-1424)

 スミレを女性と読み換えれば軟派な歌になってしまうが、スミレ色の花の清楚さが私の邪念をかき消してくれる。スミレは花も葉も生食できる。そういえば、私の知人のパティシエから、ケーキにスミレの花弁を添えたいとスミレ摘みを頼まれた。とっておきの場所にたどり着いた私は、いつしかその依頼も忘れ、野遊びに興じてしまうのだ。

 4〜5月
 北・本・四・九