冬枯れの草地の中にコバルトブルーの可憐な一輪の花を見つけた時、だれもが春の訪れを知り笑みがこぼれるのではないだろうか。早春の里山を象徴する花にふさわしいが、この花が明治初めの頃の帰化植物であることを知り複雑な気分になってしまう。さらに近縁にイヌノフグリ(犬の陰嚢)という在来種があったものだから、さらに「大」の称号が与えられてしまった。
さて、オオイヌノフグリは一日花である。したがって、一日待って昆虫の訪問がなければ、自家受粉のしくみを備えている。遺伝子の多様性を考えた場合、決してベターな手段ではないが、一日花の宿命として背に腹は代えられない。2本の雄しべが腰を折るようにして雌しべに絡みつき、受粉を完了する。イヌノフグリという名は、その2個1対の果実の形状に由来するが、開花から1ヶ月ほどで結実し、果実から縦1mm程度の米粒のような種子がパラパラと出てくる。これらの種子の真ん中には、それぞれへそのようなものがあり、そこから白いへその緒のようなものが付着している。それはエライオソーム(脂肪酸、アミノ酸、糖からなる化学物質)といって、カタクリやスミレなどの種子にも付いており、アリの好む物質としてアリ散布戦略を担っている。試しにクロヤマアリの通り道にオオイヌフグリの種子をばらまいてみたが、見向きもされなかった。同時期には、ヒメオドリコソウやホトケノザもエライオソームを付着させた種子を散布することが知られており、アリにとってもより栄養価高く好物の優先順位があるのかもしれない。
名前に始まって、原産地や受粉・散布方法など、何とうんちくの多い植物なんだろう。
2〜5月
ヨーロッパ原産。アジア(日本全土)、北アメリカ、南アメリカ、オセアニア、アフリカに外来種(帰化植物)として定着。 |