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やまとの花手帖

 
         
         

ギフチョウとミヤコアオイとカタクリ 

ユリ科カタクリ属

葛城山(2012.4.29.)

 ロープウェー葛城山上駅からほど近いところに、南北に延びる自然研究路周回コースがある。5月中旬、ヤマツツジの開花期ともなると、ロープウェーには長蛇の列が見られる葛城山だが、この自然研究路にはカタクリの群生地が見られるのだ。
 ただ、開花時期は、新緑の季節に少し早い4月中旬〜下旬。陽光を遮る若葉がない早春こそ、カタクリの成長戦略の好機であり、裸木と落ち葉の積もった殺風景な落葉樹の林床には、いち早く葉とつぼみが顔を出している。この季節は気温が十分上がらない日もあり、受粉を担う昆虫の種類も少ないが、ここではギフチョウがその役割を果たしている。葛城山の場合、このチョウはミヤコアオイの葉に卵を産み付け、孵化した幼虫はこの葉を食べて育つ。夏には蛹となり、そのまま越冬して早春に孵化する。ギフチョウにとっても、孵化後、蜜や産卵の場を提供してくれるのは、カタクリとミヤコアオイということになり、この三者の関係が保たれている自然環境こそ葛城山上というわけだ。
 一方、カタクリの種子にはアリの好むエライオソームという物質が付着しており、アリによって分布域を広げていく。早春の柔らかな日差しをわずかな期間受けとめただけで、夏眠に入ってしまうカタクリは、成長も遅い。発芽から7〜8年ぐらいまでは一枚の葉だけで過ごし、2枚の葉を付けるようになって初めてピンク色の可憐な花をつける。

 物部の 八十少女らが 汲みまがふ 寺井の上の 堅香子の花  (大伴家持 巻19-4143)

 「カタカゴ(堅香子)」の古名は、東北の一部で残っているとも聞く。この万葉集では、井戸端ではしゃぎながら水をくむ乙女たちの、時折見せるはじらいの初々しさを、うつむき加減に咲くカタクリの花にたとえたのだろうか。かつては、この鱗茎からデンプンを取り出し片栗粉として用いた。現在は、芋のデンプンが代用されているようだが、かつては人里近くに群生地があって、デンプンがとれるくらい花が咲き乱れていたのだろう。カタクリの花を踏みつけんばかりに水をくむ少女の姿もカタクリと共に、現代社会からはすっかり姿を消してしまった。

 4〜6月
 北・本・四・九