園芸種と見間違う美しさのあるアリアケスミレだが、意外にもすぐ近くの道路沿い法面に見つけることができた。乾燥にも強く悪環境の中でもしたたかに生き延びていく強さがあり、一株わが家の庭に移植すると、家庭菜園の中、植木鉢の中と瞬く間に広がった。
この繁殖力の強さには、独自の戦略がある。スミレの仲間は、美しい花を咲かせて受粉をまつ「開放花」と共に、目立つ花弁をつけず、自花受粉をして果実をつける「閉鎖花」がある。開放花の方はあまり結実せず、花期が終わるとすぐに閉鎖花が伸びてくる。閉鎖花は、一見つぼみのようで、花弁には投資せず、蜜も出さず、花粉の数も少ない。何から何まで省エネ設計で、ポリネーターがいなくとも密室の中で確実に自家受粉させる。スミレの種子は、精密機械のボールベアリングのような形状で、自動散布によってはじき出される。さらに、この種子にはアリを誘引するエライオソームという付着物があり、アリは種子を巣に持ち帰ってエライオソームのみを食べ、結果的に種子は散布範囲を広げるというわけだ。
ところが、この閉鎖花という戦略には、自家受粉ばかりで遺伝の多様性がなくなり、あるストレスによって一度に消滅してしまという恐れもある。近年の環境の激変によって、スミレの種類や数が減ってきた寂しさは、こうした強さと弱さが一因かもしれない。
4〜
5月
本・四・九 |