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やまとの花手帖

 
         
         

「思ひ草」がふさわしいナンバンギセル

ハマウツボ科ナンバンギセル属

飛鳥歴史公園(2013.11.)

 この花に巡り会うのに、随分と時間がかかった。ススキなどのイネ科の根に寄生するとあって、花期に合わせて根元を丁寧に見ていかないとなかなか出会えない。その花期も、自生地によって異なる。 
 私が最初に出会ったのは、大和葛城山山頂のススキ草原の中。成長のための栄養は寄主からいただくために光合成はしない、したがって、体のどこにも葉緑素も葉もなく、白い茎が地面からひょろりと伸び、その先にピンク色のキセル状の花弁を付ける。ただし、種子を作るための雌しべと雄しべがあるから植物の範疇のようだ。初めての出会いに興奮し、霧中でシャッター切ったが、花の咲いている場所が根っこだけに暗く、いずれもピンボケの写真だった。
 それから何年たっても、偶然の出会いはなかった。場所と時期の狙いを定め、十分な捜索時間も用意して登ったのが岩湧山。結果的にドンピシャの時期だったにもかかわらず、重そうな一眼レフのカメラを携えている人を中心に、「ナンバンギセル を見かけましたか?」と何人かに尋ねたが、その存在すら知らないような返事であった。覚悟を決めて、胸の高さ近くまで育った山頂のススキ草原に潜り込んだ。やがて、一輪、二輪と出会う。場所を変えると、今度は群生している所にも行きあたった。これでは、登山目的の人の目には触れないだろうなという場所ばかり。人知れず、やや首をかしげて咲く様から、万葉時代より「思ひ草」という名も付いている。キセルは、南蛮人が持ちこんだものだから、日本古来の呼び名が別にあったのは当然である。

 さて、二つの山で出会ったのは、いずれも「オオナンバンギセル」である。ところが、やや小ぶりの「ナンバンギセル」という品種もある。 「オオナンバンギセル」の顎の先端が鈍いに対して、こちらの顎の先端は尖っており、容易に判別がつく。
 「ナンバギセル」の自生種には未だ出会えていないが、飛鳥歴史公園(高松塚周辺地区)で、9月初旬に咲いているという情報を得て足を運んだ。公園内は、手入れが行き届いており、ナンバンギセルの所在を示す標識もあったが、この日は出会えなかった。2024年の9月は、例年以上に残暑厳しい年で、日傘をさしながらの探索である。最近は、男性用のオシャレで効果抜群の日傘も販売されている。一週間後、あらためて訪れてみると、歩道沿いの標識のないススキの株に、格子戸の向こうで人目を避けるかのように見え隠れするナンバンギセル一株を見逃さなかった。さらに丁寧に探してみると、南向きの株に数輪見つけることができた。

 万葉集に一首、「思ひ草」を詠んだとされるものがある。

 道の辺の 尾花が下の 思ひ草 今さらさらに 何をか思はむ (不明 10-2270)

 ここで歌われているのは、「オオナンバンギセル」ではなく「ナンバンギセル」ではないかと思う。「オオナンバンギセル」は、花弁も華やかでやはり南蛮美人。 一方、全体的に小ぶりで淡い色合いの「ナンバンギセル」こそ、大和撫子ではないかと思い描いてみた。ただ、飛鳥歴史公園のものは、植栽されたもので 自生種ではないと推察する。その地の「思ひ草」に、出会ってみたいものである。

 7〜9月
 本・四・九