この植物にはおもしろい仕掛けが3つある。
1つ目、この花の種は、風や動物に刺激を与えられることによって、自らはじけ飛ぶ。この散布方法はホウセンカなどが有名であるが、実は同じツリフネソウ科の仲間
だ。学名は、いずれも属名Impatiensからはじまるが、ラテン語で「我慢できない」という意味らしい。また、花言葉は「私に触れないで」。悩ましい花である。
2つ目は、この花の形。ポリネーターとなる昆虫の選り好みをせず、だれをも歓迎するかのようなパラボラアンテナ型の花が多いのに対して、決まったパートナーを大切にする形状に進化したものもある。ツリフネソウの仲間は後者で、そのお相手はマルハナバチ。唇状の2枚の花弁(しばしば結合している)が離着陸の足場となり、その奥には筒状に進化した萼片がある。さらに、蜜標をたどっていくと細く渦を巻いた距があり
、そこに蜜を貯めている。筒状の萼片サイズは、マルハナバチのためのオーダーメイド
となっていて、迷路の先の蜜にたどり着くことができるのは、長いストロー状の中舌をもったマルハナバチの仲間というわけだ。ちなみに、ホウセンカは東南アジア原産らしく、本来のポリネーターは
不明である。
3つ目は、吊舟と称される花の位置。屋形船のように、葉を日よけ雨よけとしている。ハガクレツリフネの学名は「Impatiens
hypophylla Makino」で、真ん中のhypophyllaは「葉の下」という意味。牧野富太郎氏が命名する際、やはりここに食いついたことになる。葉裏に花が隠れていると、ポリネータ−から見つけてもら
いにくいと思うのだが、今なお絶滅していないということはさほどハンディにはなっていないようだ。マルハナバチという決まったお相手がいるからだろうか。しかし、ホウセンカや他のツリフネソウは隠れていないし、
やはり「葉の下」は謎である。そう言えば、花言葉は「(そこには)触れないで」だった。
7〜10月
本(紀伊半島)・四・九 |