日本の音風景100選は、1996年に当時の環境庁(現・環境省)が「全国各地で人々が地域のシンボルとして大切にし、将来に残していきたいと願っている音の聞こえる環境(音風景)」を広く公募し、100件を選定したもの。奈良県内では「春日野の鹿と諸寺の鐘」が選ばれているが、私の住まいの近く和歌山県橋本市杉尾に「不動山の巨石で聞こえる紀の川」という音風景100選の1つが存在する。
かつて杉尾地区は山深く不便な地域であったが、近年は和泉山脈の襞々に位置する集落を縫うように舗装された道路が東西に走り、便利になってきた。そうした道路を利用するたびに、「音風景100選不動山の巨石」という看板が気になっていたのだが、この夏、とうとう看板に導かれていった。不動山の袂には、近年、整備されたと思われる駐車場やトイレ、案内地図があり迷うことなく登り口にとりつくことができた。
ところが「じぇじぇじぇじぇじぇ〜〜〜っ」、だれが数えたか635段の階段が一直線に山頂に向かって伸びているではないか。(ちなみに、金比羅さんの石段は785段らしい。)その彼方は雑木の闇に吸い込まれ、文字通り見通しの立たない不安と息切れが交錯する。何度も腰に手を当て深呼吸しながら、お目当ての巨石にとりついた。これらの巨石は、その昔、一言主命が葛城山から金峯山に橋を架けようとしたが、人目を避けて昼間作業しなかったので結局石を集めただけに終わったという伝説も残る。現在は、永禄年間に信仰を集めたという不動尊が祀られている。
ここ不動山付近は、地質的には和泉層群で、かつて海底であったときに堆積した礫岩などが多く見られる。この和泉層群は五條市の大澤寺あたりから領家変成岩である花崗岩に代わっていく。したがって、巨石群をよく見ると、巨大な礫岩で、永年の間に表層の土壌が浸食され礫岩が露わになったと思われる。登山道にもよく目をやると、小さな礫岩が数多く利用されていた。いずれにしても、古の人々は山腹に突如現れた巨石を前に、パワースポットとして信仰を集めていったのだろう。
さて、音風景の話に戻るが、この巨石のひとつに、直径20センチ奥行き25センチの丸い穴があいていて、耳をあてると神秘的な音が聞こえる。この音は、昔から「この世の音、あの世の音」あるいは「紀の川の流れ」と伝えられてきた。
635段の階段は、さすがに高齢者にはきついためか、もう少しなだらかで近道の参道も整備されている。ここ杉尾地区には、一昔前の風景が残っており、古代米の産地としても紹介されている。
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