紀ノ川沿いに走る国道24号線がかつらぎ町役場を通過する頃、ちょうど真南の紀伊山地を仰いでみよう。1つ山の向こう標高450mのところに「天野」という里がある。紀伊山地の襞の中にぽっかりと現れた里は、「桃源郷」と呼ぶにふさわしい。朝日新聞社と森林文化協会が選んだ「にほんの里100選」にもリストアップされ、「1600年の歴史をもつ。高野山参拝の表参道で史跡、文化財が保護されている。田園風景に里の豊かさ・ぬくもりを感じる。」と評されている。
その天野に、1700年も前から鎮座するのが“丹生都比売神社”。「弘法大師は、丹生都比売大神よりご神領である高野山を借受け、山上大伽藍に大神の御社を建て守護神として祀り、真言密教の総本山高野山を開いた。」とされるから、高野山よりも歴史がある。かつて、高野山参詣の表参道であった“町石道”が、すぐ近くの尾根を通る。九度山と高野山のちょうど中間地点に立つ
「二つ鳥居」は、この神社境内の入口にあたり、まず当社に参拝した後に高野山に登ることが古くからの慣習であったという。したがって、当社も町石道と共に、平成16年、「紀伊山地の霊場と参詣道」の世界遺産に登録された。
「丹」は朱砂の鉱石から採取される朱を意味し、その鉱脈のあるところに、「丹生」の地名や神社が残る。紀ノ川流域には丹生川という支流があり、奈良県に入ると丹生川上神社が知られる。丹生都比売大神は、この地に本拠を置く日本全国の朱砂を支配する一族の祀る女神とされて
おり、全国にある丹生神社八十八社、丹生都比売大神を祀る神社百八社、摂末社を入れると百八十社余を数え、当社は、その総本社である。
こちらの神社には、その「丹」の女神であることを象徴するかのような
、べんがら塗りの見事な太鼓橋が、まず目に飛び込んでくる。初詣客が訪れる年末年始の夜にはライトアップもされ、暗闇の中、荘厳な「丹」が浮かび上がる。凍結シーズンを除けば、歩いて渡ることもできる。もちろん本殿も「丹」。ご祭神は以下の通りであるが、私が注目したのは、財運と芸能の神“市杵島比売大神”。私の芸運を祈り手を合わせた。 |