Field Guide
                         くりんとのフィールドノート

           
   
 西原の虫送り

 農作物の害虫駆除を目的として、鉦や太鼓をたたきながら松明を持って行列を組み、村内を練り歩きながら豊作を祈願する伝統行事を「虫送り」という。奈良県内でも、以下の地域で今なお行われており、6月16日や夏至の前後、また七夕に合わせて行われる。害虫駆除のための実効的な効果はないと思われ、呪術的なものに近いが、農薬が普及するまでは、全国各地見られた風物詩のようだ。
 今回は、上北山村西原の虫送りに参加した。こちらは、大台ヶ原と大峰山系の狭間に位置する山村ゆえ、平地は乏しく、現在、西原地区に水田や大規模な畑作は見られない。しかし、なぜか虫送りの行事は延々と受け継がれてきた。240年続いているとも言われる。こちらの虫送りでは、病害虫の退散に加えて、先人達の供養、五穀豊穣などをお祈りする。
 以前は七夕に合わせて行われていたようだが、数年前から7月の第1土曜日になったと聞く。西原地区内の白龍山宝泉寺で祈祷が行われた後、和泉地区にある車僧禅師のお墓へお参りをする。車僧禅師は南朝にゆかりのある方で、後亀山天皇の孫で尊慶王と呼ばれたらしい。南朝悲話は吉野各地に残るが、ここ上北山村も例外ではないようだ。

市町村 地区(社寺)
天理市 山田町(上山田・中山田・下山田) 6.16.
奈良市 小倉町(観音寺)・針ケ別所町(長力寺) 6.16.(小倉町)
  奈良阪(西福寺〜奈良豆比古神社)  
宇陀市 室生区無山(牟山寺)・.染田(十輪寺)・小原(極楽寺)・下笠間 6.16.
上北山村 西原 7月第1土曜

  西原では松明のことを松明木(たやぎ)と呼び、こちらの材料はヒノキ材である。細長く割り咲かれたものに枝の部分なども混ぜ、直径10cm程度に束ね締めていく。さらに天井部分からどんどん差し込み、適度な空気孔を保ちながら長さ1m位に仕上げる。私は、あらかじめ用意されたものを持たせてもらったが、今回(2015年)、有料でマイ・たやぎ製作も受け付けておられていた。
さて、午後7時頃、車僧の墓前に御供えした蝋燭の火を使って松明に次々着火する。最終的には、100人近い松明の行列となって、和泉地区を下り下田地区(約2km先)の河原をめざす。道中、鐘の音に合わせて誰からともなく、合い言葉が叫ばれ大合唱となる。沿道には、各家からのお出迎えも多い。
  「ちんちん こんこん おーくったー おーくったー」「おーむし こーむし おーくったー」
 祭りごとは、やっぱり参加するのが一番楽しい。はじめは照れくさくて小さかった私の掛け声も、大合唱に引きつられてヴォリュームがあがる。この日は小雨模様の一日だったが、不思議と7時頃からは雨足も和らいだ。しかし、湿度が高いのか松明の炎は、例年に比べると小さかったそうだ。翌朝、町並みを歩くと、大行列の跡には、大蛇がすり抜けたかのように、焼け炭の破片が尾を引いていた。祭りの後の余韻も楽しいものだ。

 
松明木(たやぎ)   虫送りの呪文
 
 
   

 
   

Copyright (C) Yoshino-Oomine Field Note