Field Guide
                         くりんとのフィールドノート

           
   
 信楽・森の宿いろりーな

信楽高原鉄道紫香楽宮跡駅の北側に、遮断機のない踏切がある。
この踏切は、「三上・田上・信楽県立自然公園」に指定されている里山の入り口でもある。
日本六古窯(にほんろっこよう)の1つ信楽の町に隣接する里山らしく、その薪窯となるアカマツが主な構成林である。
この環境に惚れ込んだアラフォー女性が、森の宿なるものを建てた。
自ら重機を操作して開墾し、無垢の木をふんだんに使って夢の一歩が具現化する。
宿の真ん中には大きな薪ストーブを据え、季節の食材を使って創意工夫の料理でもてなす。
収容人員はわずか11名。
この人数が体温の通ったサービスの限界である。
テレビもインターネットもない。
聞こえるのは信楽高原鉄道の警笛と薪ストーブ上で蒸気を吐きだすやかんの音くらい。
希望すれば、宿主からヨガの手ほどきを受けることもできる。
私は、読書にコーヒー、時折、野鳥の声を聞きながらその同定に図鑑を広げる。

もう一度、踏切に話を戻そう。
この踏切は一見何の変哲もないが、車で来た人にとっては厄介である。
どうやら普通車の侵入を拒んでいる様子で、太い鉄製ガードが立ちはだかっている。
奥側のガードはさらに狭いように見えるが、軽四ならすり抜けることができる。
レガシィでやって来た私の場合、車は駅の駐車場に置き、荷物を担いで徒歩で自然公園の入口に足を踏み入れる。
すぐにアカマツの雑木林が出迎えてくれるが、途中、大きな分かれ道と、小さな川がそれぞれ2カ所。
案内板があったかのようにも記憶するが、見逃してしまうほど細やかなものだし、川には橋も飛び石もない。
五感を研ぎ澄ませばやがて宿にたどり着くはずだが、踏切といい山道といいなんだか最初から、この宿にあう人間かどうかリトマス試験紙でチェックを受けているようだ。
ただ、こちらの宿主はいたってフランクリィな人柄で、来る者拒まずというスタンスだが、立地がそうさせているのだ。

翌日、彼の小川、分岐路を戻り、踏切を渡って帰る。
わずか20時間足らずの滞在だったはずだが、あの世からこの世に戻ってきた錯覚を覚える。
ただ、心は軽くなったようだ。
ここまでお付き合いいただければ、毎年、ノーベル文学賞候補に名を連ねている日本人作家の世界をイメージしてもらえるかもしれない。

その宿の名は「いろり〜な」。
1泊2食付で5000円(税別)。
いろり〜なのブログ

   
名物鉄鍋ビビンバ   一両編成の信楽高原鉄道   ほうじチャイ・プリンの黒豆黒蜜かけ
   
雪化粧がよく似合う   アンチョビとシメジのディップ   薪ストーブが話を弾ませる
 
 
   

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