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                         くりんとのフィールドノート

           
   
 五條市南阿田町の流し雛

 

  雛祭りと言えば、別名「桃の節句」。こちら奈良では、早春に梅が咲き、続いて桜、桃の順となるから、桃の花は4月上〜中旬に見られる。奈良県五條市南阿田町では、この桃の開花に合わせて「流し雛」がとり行われる(毎年4月第1日曜日)。実は、戦前まで続いてたこの伝統が、戦中戦後は一時途絶えたのだが、昭和44年(1969年)に復活され、現在まで続いている。こちらの「流し雛」は、この雛が、紀州の淡島神社へと流れ着くようにすることによって、女の子の病封じを祈願するならわし と聞く。他には、和歌山県の粉河寺、加太淡島神社、そして鳥取県のもちがせの流し雛などが知られている。

 午後1時前ともなると、晴れ着で着飾った少女たちが源龍寺のお堂に入り、雛供養が行われる。最近では、参加する少女は小学校6年生が最年長となっており、南阿田町は五條市郊外の農村で少子化も手伝って、2011年度は10名の参加者であった。うち何名かは、祖父母の家に里帰りしての参加とも聞く。
 雛供養が終わると、数百メートル離れた吉野川まで列を組んで歩く。手には流し雛。千代紙で 着物と袴を折り、頭を大豆で作った男女の雛を竹皮で作った舟に乗せ、紙の一文銭が添えられている。吉野川河岸には2本の竹としめ縄が祀られ、年長の少女が「流し雛さま、私たち今までの罪汚れを吉野川の流れの上に、おとき下さいまして、清く、正しく、明るく健やかに育ちますようにお願い致します。どうか私達の切なる願いをおききどけ下さいませ。」と願いを 読み上げる。さあ、いよいよ行事のクライマックス。大挙押し寄せたアマチュア・カメラマンと思わしき人たちが、下流の流れに脛まで浸かり、一斉にシャッターを切る。川面に手を合わせる無垢な少女たちと
高価な一眼デジカメをもった熟年の方々とが向かい合う妙な光景。

 そうしたカメラマンたちも、それぞれの収穫に満足し、早々と帰路につく。河原に静けさが戻った頃、私は、少し上流を散策していたのだが、さっきまで主役であった少女のうち、二人が川辺で名残惜しそうに戯れている。やがて、流し雛のセレモニーは終わったはずなのに、取りおいてあったのか雛をあらためて吉野川の川面に浮かべ、その流れに向かって手を合わせていた。大きな岩の狭間に映った思いがけないシーンを、映画の一場面のように脳裏に焼き付ける。なんだかとても豊かな気持ちになった。

 

【引用文献】
〇五條市Webページ「南阿田の流し雛
〇朝日新聞 be on Sunday 花をひろう/高橋睦郎(2011.4.2.付)

 
 
   

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