そもそも狭山丘陵は、照葉樹林帯における2次林で、標高は狭山湖周辺で100m前後である。そうした地理的条件から排除されるべきブナ科の樹種もあるため、どんぐりの種類も絞られてくるが、それでも約15種類は可能性として残る。
私が訪れたトトロの森1号地周辺では、常緑樹のアラカシとシラカシ、落葉樹のクヌギとコナラを発見することができたので、映画中のどんぐりにも
、この4種にあてはめて問題ないだろ。
一方、映画のシーンの中には、ずばりその答えともいえる描写が2ヶ所ある。まずは、上表のNo.4のシーン。トトロからもらった笹の葉の包みをあけるとたくさんの木の実が入っており、大きくクローズアップされる。私がこのシーンから自信をもって同定できた木の実の樹種は、クヌギとコナラ。あと、生食できるので狭義のどんぐりには入らないが、やはりブナ科の堅果として、クリとツブラジイも描かれていた。それから、ブナ科ではないが、これも生食できる常緑針葉樹イチイ科のカヤの実も判別できる。
次に、No.6のシーンでは、模範解答ともいうべき、サツキのスケッチと樹種名が見られる。このスケッチは、メイがトトロからもらった笹の葉にくるまれた木の実を庭に植え芽を出したもので、先のNo.4の答えとも言える。さて、そのスケッチブックには、アラカシ、シラカシ、クヌギ、マテバシイの芽が描かれている。したがって、No.4に描かれていた木の実の中には、アラカシやシラカシ、マテバシイもあったわけで、そこまでヒントを与えてくれれば、No.4の描写からその3種を言い当てることができる。さらに、No.3のカシ類の葉っぱとどんぐりにも、アラカシを当てはめればいいだろう。
ただここで、マテバシイのどんぐりが含まれていることには、いささか植生考証に疑問が残る。マテバシイの自生地は、九州や沖縄などの暖かい地方で「サツマジイ」という呼び名もある。ただ、本州でも房総半島の南端や紀伊半島など温暖な地域に部分的に見られる。また、最近では、公園での植栽や街路樹としても利用され、全国区となってしまったきらいもある。しかし、トトロの舞台は昭和30年代という設定なので、まだそうした緑化方法は広まっていなかっただろうし、房総半島の南端のマテバシイがここまで足を延ばしたとも考えにくい。
話をNo.4のトトロからもらった笹の葉の包みに戻すが、ひろげられた木の実はとてもよく描写されている。(※上図)決してイメージで描かれたものではなく、おそらく実物を見ながらのものだろう。したがって、カヤの実やツブラジイ、クリのように絵だけで同定できるものもある。実は、どんぐりの形状だけで同定するのは、カシ類の場合とても難しい。これまで映画の中のカシ類のどんぐりは、アラカシとシラカシのみを挙げたが、絵の中にはひょっとするとそれ以外のものが描かれているのかもしれない。この地域の可能性として挙げられるのは、ツクバネガシ、ウラジロガシ、アカガシなどであるが、いずれももう少し標高(200〜750m)が欲しい樹種である。しかし、トトロのことなら空を飛んで、集めてきたのかもしれないし、そこまで想像を膨らませれば、先のマテバシイも問題ないことになる。
ジブリ映画に、自然科学的な考証をより正確にしろという気持ちはさらさらない。私の周りの子供たちに、「これはトトロの集めていたどんぐりだよ」と、言い添えたいだけである。この秋は、トトロのどんぐりを子どもたちと一緒に集めてみませんか。 |