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●どんぐりとアカネズミの共存関係
ネズミはどんぐりをあちこちへ運んでは埋めておき、後から掘り出して食べる。でも時には忘れられ、どんぐりはそこで芽を出す。どんぐりにとって、ネズミはすみかを広げるための大切な存在。ネズミとどんぐりは共存の関係にある。
●どんぐりに含まれるタンニンの毒性について
どんぐりの主な成分はデンプンだが、その特徴的な成分としてタンニンが含まれている。タンニンはタンパク質と結合する性質を有する水溶性ポリフェノール成分の総称で、苦み、渋み成分として知られていて、緑茶などにも多く含まれる。タンニンは化学構造の観点から大きく「加水分解型タンニン」と「縮合型タンニン」に分類されるが、どんぐりに含まれるタンニンは主に「加水分解型タンニン」である。タンニンを多量に摂取すると、消化管に損傷を与え、腎臓や肝臓に負担を与えることもある。
同じどんぐりでも、マテバシイやスダジイ、 |
ブナの実に残されたネズミの食痕 |
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ツブラジイ、クリ、ブナなどの堅果はタンニンが少なく、そのままでも食べることができる。しかし、コナラやミズナラなどはタンニンの量も多く、人間が食する場合、アク抜きが必要である。地面に埋めておくと毒が抜けるという説もあるらしいが、3ヶ月後や6ヶ月後に調べても大して減っていなかったという実験結果もある。これらのタンニンは水溶性で水に溶けやすい性質をもっているので、縄文時代より水晒し方法でアクを抜き食してきた。アラカシやシラカシはタンニンの量も少ないので水晒しだけでも可能だが、コナラやミズナラはタンニンの量も多く、さらに煮沸も必要である。
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コナラ |
ミズナラ |
粗タンパク(%) |
4.52 |
4.42 |
粗脂肪(%) |
2.46 |
1.68 |
粗灰分(%) |
2.81 |
1.49 |
粗繊維(%) |
1.93 |
2.10 |
炭水化物(%) |
81.0 |
78.6 |
タンニン
(%,タンニン酸当量) |
2.65 |
8.60 |
カロリー
(kcal/g) |
4.24 |
4.30 |
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堅果の栄養成分およびタンニン含有量
(数値は乾重に対する値
/種被を含まない) |
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●アカネズミがタンニンを克服できるわけ |
森林総合研究所島田卓哉氏(東北支所)らが行った研究によると、アカネズミのタンニン克服のキーワードは「馴化(馴れ)」だという。そして、
右の実験結果が出ている。
こうした実験結果は、「馴化」によってタンニンによるダメージ克服されたことを示している。では、なぜ「馴化」が起きるのか。
まず最初に、タンニンの毒消し役として重要なのは、人も持つ「タンニン結合性唾液たんぱく質」である。この唾液はタンニンと結びついて安定した複合体を作り、有毒な働きを抑える。必要な時には
分泌量が増えるが、必要でなくなれば3日から1週間で減ってしまうという。
次に、タンニンを分解する酵素を出す「タンナーゼ産生腸内細菌」も一役買っているようだ。唾液によって結合した複合体は、この腸内細菌の作用で分解され再利用されるという計2段階のメカニズムによって、タンニンに富むどんぐりを餌としているわけだ。
●どんぐり側の対抗戦略
○ ネズミは大きなドングリを食べる傾向がある。どんぐりが大きいほど有利とは限らない。 |
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ミズナラのどんぐりを与えると |
少量のミズナラのどんぐりを事前に与え続けたアカネズミ |
○体重を平均2.5%落とした。
○12頭中死亡したの1頭 |
タンニンに馴らしていない
アカネズミ |
○著しく体重を減らした。
(平均17.5%)
○14頭中8頭が死亡 |
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ミズナラのどんぐりを与える実験 |
ミズナラのどんぐり |
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○ どうやらネズミはちょっと味見をしたりして、タンニンが少ないものを選んで食べているらしい。それならタンニンを増やした方が、どんぐりが子孫を残すには有利に思えるが、見向きもされなくては遠くへ運んでもらえない。
したがって、どんぐりは大きくても小さくてもダメ。タンニンが多くても少なくてもだめ。つまり、どんな事態にも備えられるように、いろいろと用意しておくのが、どんぐりの生き残り戦略。そのために幅広い変異を持っていると考えられる。人の生き方にも応用したい柔軟な戦略である。
●アカネズミとトチノキとの関係について
森の中で、アカネズミが本当に好きなのは、脂質の多いブナの実。大台ヶ原のヒメネズミを調査した際、ミズナラだけの豊作では越冬生残率が低く、ブナの豊作が越冬の必須条件となっていることが報告されている。しかし、豊凶の差が激しいブナの実だけでは、毎年の食料としてあてにできない。そこで、豊凶の差が少なく、毎年確実に大きな実をつけてくれるトチノキの堅果が、アカネズミの社会を維持していくには、とても重要となってくる。
トチノキの種子には、非常に毒性の強いサポニンが含まれていて、人がこれを食用にする際にもたいへんな手間と時間がかかる。したがって、アカネズミにとっては、まさに命がけの知恵比べがここでも繰り広げられているはずだ。
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●補足:オニグルミとニホンリスの貯食行動について
多摩森林科学園森林生物研究室・樹木研究室が、小型の無線発信器をオニグルミの実に付け、運ばれた位置を受信機で検索したところ
、以下のような調査結果が報告されている。
すぐ食べる
42% |
貯食する 58%(地面47個、樹上44個) |
後日食べる
39%(61個) |
アカネズミ
が盗む
12%
(19個) |
発芽を待つ
7%
(11個) |
まず、オニグルミの実は156個運ばれ、それらは地面の落ち葉の下や樹上の枝の間に貯食された
。その貯食場所は母樹から15m以内
というのが多いが、1〜168mと変異も大きいようだ。オニグルミとニホンリスは、やはり共存の関係。オニグルミは、栄養価の高い実をニホンリスに提供することによって、今度は種子として遠くへ運んでもらわなくては意味がない。上記の調査結果によると、最終的に7%の種子が食を免れ、発芽を待つこととなった。
オニグルミの種子の場合、「動物散布植物」であると共に「水散布植物」でもある。この木は河岸での自生が多く、落ちた種子が川の流れにのっかって自生地を広げていくというスタイルだ。
堅果に中には空気層があって、実際水に浮く。どんぐりの場合、水に浮くと虫が食っている証となって発芽も難しいが、オニグルミの場合、遠くへ流れ着くための浮き輪を内蔵しているというわけだ。したがって、先の7%という数字以外にも、発芽を待つ兄弟たちがたくさんいたはずだと考えられる。
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【引用文献】
○
2009年12月12日朝日新聞“土曜ナント力学”「ネズミとどんぐりの攻防戦」
○
「被食防御物質タンニンに富むドングリをアカネズミが利用できるわけ」森林総合研究所平成18年度研究成果選集(東北支所生物多様性研究グループ島田卓哉)
○「ニホンリスの貯食行動によるオニグルミの更新」 |
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