天敵が多く、その分逃げ足の速い後足を進化させたノウサギは、敵に発見されにく
いよう鳴き声をあげることさえ退化させた。したがって、声帯さえもたない。さらに警戒心も強いため、人間が出くわすことも難しい。また、近くにいても
体毛がカモフラージュとなって、なかなか気づかない。
しかし、私が住む住宅地の周辺にもノウサギが生息していることは、その糞や食痕などでわかる。毎年、秋のヤマグリが実る頃には、私より早く
その実りに気づき、食べた跡の殻がたくさん放置されている。また、シラカシやツクバネガシなど常緑の苗木を植栽すると、決まって冬芽がかじりとられる被害に遭う。こ
のようにして、ノウサギがすぐご近所に生息している歓びを、毎年、確認している。
小さい頃、ウサギの猟にも連れってもらったことがある。たしか冬場、枯れススキの株の根元に、ノウサギがうずくまっていた映像が鮮明に記憶に残っている。父は
、友だちが仕留めたウサギの肉を分けてもらい、すき焼きにして食べていたが、卯年生まれの母はそれを嫌がった。臭みがあって固く、あまり美味しくなかったノウサギの肉
の味は、今も舌がよく覚えている。
頭胴長45〜54cm。全身褐色の毛で覆われているが、日照時間や気温によって積雪地帯では全身白毛に変わることが知られている。北海道のエゾユキウサギは、長くエゾノウサギと呼ばれていたが、ニホンノウサギの亜種ではなく、ユキウサギの亜種であることがわかり
、呼称変更となった。ちなみに、エゾユキウサギは頭胴長50〜60cmとひとまわり大きい。
ノウサギの繁殖は地域によって異なるが、春から秋にかけて年間1〜6回出産し、一度に1〜4頭の子を産む。妊娠期間は42〜47日で、1頭の雌は年間に平均10頭の子を産む計算になる。ノウサギはさらに成長も早く、遅くとも生後1年以内には成獣となる。
草食動物の中には、牛のようにいくつも胃を持っていて発酵させ反芻するようだが、ノウサギに胃は1つしかなく、盲腸に貯める。しかし、短い盲腸での発酵では不十分で、消化不良が多い。したがって、ノウサギは自分の糞をもう一度食べて、栄養を補うようだ。
ペットとして飼われている白い毛、赤い眼のイエウサギはアナウサギの仲間で穴を掘る。しかし、ノウサギは出産時にも穴を利用するようなことはない。サイクルの早い多産型の哺乳類
にとって、キツネやテン、猛禽類などの捕食者は多く、食物連鎖の重要な一因を担っている。
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